横浜地方裁判所 平成5年(ワ)3719号 判決 1996年9月04日
原告
三浦定子
同
三浦一男
同
有限会社丹花商事
右代表者代表取締役
三浦定子
原告
小川信男
同
有限会社丸信商事
右代表者代表取締役
小川タミ
原告
栁下實
同
中島サイ
同
中島憭
原告ら訴訟代理人弁護士
石戸谷豊
伊藤幹郎
岡田尚
杉本朗
山崎健一
芳野直子
大谷豊
小野毅
小賀坂徹
星野秀紀
剣持京助
小林俊行
小林秀俊
斎藤尚之
柴野真也
杉崎明
鈴木義仁
武井共夫
中村俊規
根岸義道
福所泰紀
道尻豊
山本安志
岸本努
斎藤園生
菅野善夫
栗山博史
宮田隆男
被告
明治生命保険相互会社
右代表者代表取締役
波多健治郎
被告
株式会社明治生命保険代理社
右代表者代表取締役
永長隆徳
右被告ら訴訟代理人弁護士
佐藤道雄
田邊雅延
市野澤要治
上山一知
被告
株式会社横浜銀行
右代表者代表取締役
田中敬
被告
横浜信用保証株式会社
右代表者代表取締役
五反田泰道
右被告ら訴訟代理人弁護士
鈴木重信
主文
一 被告明治生命保険相互会社は、原告三浦定子に対し、金一億六一六七万六〇〇〇円、原告小川信男に対し、金二億二六七二万八〇〇〇円、原告栁下實に対し、金二億三五〇六万二〇〇〇円、原告中島サイに対し、金一億九九七四万三〇〇〇円及びこれらに対する平成五年一一月二五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告明治生命保険相互会社、被告株式会社明治生命保険代理社及び被告株式会社横浜銀行は、各自、原告三浦定子に対し、金七六七二万八七二七円、原告小川信男に対し、金一億〇四八一万三一五六円、原告栁下實に対し、金一億〇八五一万四一七八円、原告中島サイに対し、金八二四五万四二二二円及びこれらに対する平成元年一一月二四日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告横浜信用保証株式会社に対する各請求並びに被告明治生命保険相互会社、被告株式会社明治生命保険代理社及び被告株式会社横浜銀行に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告らと被告明治生命保険相互会社、被告株式会社明治生命保険代理社及び被告株式会社横浜銀行との間においては、原告らに生じた費用の八分の七を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告横浜信用保証株式会社との間においては、全部原告らの負担とする。
五 この判決は、一、二項につき、仮に執行することができる。
事案及び理由
第一 請求
一 主位的
1 被告明治生命保険相互会社、被告株式会社明治生命保険代理社及び被告株式会社横浜銀行は、別紙債権目録一記載の各原告に対し、連帯して、同目録記載の各金員及びこれらに対する平成元年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 被告株式会社横浜銀行と別紙債権目録二記載の各原告との間の、同債権目録記載の各基本取引契約に基づく一切の債務の存在しないことを確認する。
3 被告横浜信用保証株式会社は、原告三浦定子、同三浦一男及び同有限会社丹花商事に対し、別紙物件目録一記載の各不動産について別紙登記目録一記載の根抵当権設定登記の、原告小川信男、同有限会社丸信商事に対し、別紙物件目録二記載の各不動産について別紙登記目録二記載の根抵当権設定登記の、原告栁下實に対し、別紙物件目録三記載の各不動産について別紙登記目録三記載の根抵当権設定登記の、原告中島サイ及び同中島に対し、別紙物件目録四記載の各不動産について別紙登記目録四及び五記載の各根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
二 予備的
被告明治生命保険相互会社、被告株式会社明治生命保険代理社及び被告株式会社横浜銀行は、別紙債権目録三記載の各原告に対し、連帯して、同目録記載の各金員及びこれらに対する平成元年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告株式会社明治生命保険代理社(「被告代理社」という。)及び被告株式会社横浜銀行(「被告横浜銀行」という。)の各従業員が原告らの変額保険契約の締結に際し、提携関係の下一体となって不当な勧誘をしたとして、
主位的に、
各原告の変額保険契約、カードローン契約、保証委託契約及び根抵当権設定契約(「本件各契約」という。)の錯誤無効、公序良俗違反による無効、詐欺取消し及び説明義務違反の債務不履行に基づく本件各契約の解除により、被告明治生命保険相互会社(「被告明治生命」という。)に対しては、不当利得金として各原告の払込保険料相当額及びこれに対する遅延損害金を、被告横浜銀行に対しては、各原告の借入金債務の不存在の確認を、被告横浜信用保証株式会社(「被告横浜信用保証」という。)に対しては、本件各不動産の所有権ないし契約の解除に基づき本件各根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるとともに、被告横浜銀行、同明治生命、同代理社に対し、共同不法行為、使用者責任及び保険募集の取締に関する法律(「募取法」という。)一一条に基づき損害賠償として保険料払込のための借入金の支払利息等を含む損害金(別紙債権目録一。内訳は別紙損害目録1記載のとおり。)の支払いを求め、
予備的に、
本件各契約が有効であるならば、被告横浜銀行、同明治生命、同代理社に対し、共同不法行為責任(民法七〇九条、七一五条、七一九条、募取法一一条)に基づき、払込保険料、融資手数料及び根抵当権設定登記費用等に元金増加分、解約日までの約定利息及び解約日の翌日からの遅延損害金を加算した金額から、別紙解約返戻金相当額を控除した金額相当の損害金(別紙債権目録三。内訳は別紙損害目録2記載のとおり。)の支払いを求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告ら
(一) 原告三浦定子(「原告定子」という。)は本件変額保険契約締結当時六十八歳(大正一一年一月九日生)で、高等女学校卒業後、主婦及び原告有限会社丹花商事(「原告丹花商事」という。)の代表取締役をしており、被告明治生命の生命保険「ダイナミック保険ナイスONE(変額保険終身型)」(「本件変額保険」という。)の他には郵便局の簡易保険に加入している(甲三七、原告定子本人)。
原告三浦一男(「原告一男」という。)は原告定子の長男で、同原告の本件変額保険の加入に際し、保険料の借入れのため同原告の連帯保証人となり、その所有土地に別紙登記目録一記載の根抵当権を設定した。
原告丹花商事は、不動産の管理等を目的とする会社であり、原告定子の本件変額保険の加入に際し、保険料の借入れのため同原告の連帯保証人となり、その所有建物に別紙登記目録一記載の根抵当権を設定した。
以上の原告らを合わせて「原告三浦ら」という。
(二) 原告小川信男(「原告信男」という。)は、本件変額保険契約締結当時七十六歳(大正二年三月五日生)で、尋常小学校、自習学校卒業後、農業及び原告有限会社丸信商事(「原告丸信商事」という。)の代表取締役を経て、現在は農業に従事しており、本件変額保険の他には、農業協同組合の生命保険である養老生命共済と郵便局の簡易保険に加入している(甲三八、原告信男)。
原告丸信商事は、原告信男の長男の妻小川タミを代表取締役とする不動産の管理等を目的とした会社であり、同原告の本件変額保険の加入に際し、保険料の借入れのため、その所有する建物に別紙登記目録二記載の根抵当権を設定した。
以上の原告らを合わせ「原告小川ら」という。
(三) 原告栁下實(「原告栁下」という。)は、本件変額保険契約締結当時、七八歳(明治四四年生)で、尋常高等小学校を卒業後、大蔵省印刷局小田原工場に奉職し、印刷工場の現業労働者(印刷工)として定年まで勤務した後、農業に従事している(甲三九)。
(四) 原告中島サイ(「原告サイ」という。)は、本件変額保険契約締結当時、七六歳(大正二年生)で、尋常小学校高等科卒業後、職に就くことなく、主婦をしており、本件変額保険の他には生命保険に加入していない(甲四一、原告サイ)。
(五) 原告中島(「原告」という。)は原告サイの長男で、本件変額保険契約締結当時四九歳であり、日本大学芸術学部卒業後、TBS(東京放送)等の勤務を経て、昭和四七年からTVK(テレビ神奈川)に勤務し、本件当時は、TVKの報道制作局ワイド番組部長兼プロデューサー、現在は、TVKエンタープライズの専務取締役として稼働している(原告)もので、同人は原告サイの本件変額保険の加入に際し、保険料の借入れのため原告サイの連帯保証人となり、その所有土地に別紙登記目録四記載の根抵当権を設定した(甲四〇、原告)
以上の原告らを合わせ「原告中島ら」という。
2 被告ら
(一) 被告明治生命は、生命保険事業等を営む相互会社である。
(二) 被告代理社は、被告明治生命から委託を受けて東日本における生命保険の募集に関する業務等を目的とした株式会社である。
(三) 被告横浜銀行は、横浜市西区みなとみらい三丁目一番一号に本店を置く地方銀行である。
(四) 被告横浜信用保証は、消費者金融に係わる借入保証業務等を目的とする株式会社であり、被告横浜銀行グループ関連会社である。
3(一) 政金正文、岡部登、加藤勇一及び松岡雄吉(以下、それぞれ「政金」、「岡部」、「加藤」、「松岡」という。)は、いずれも本件変額保険契約締結当時、被告横浜銀行小田原支店の従業員であって、政金は、支店長代理主査として渉外係の統括をし、岡部、加藤及び松岡の直属の上司であった。また、岡部は取引先の定例集金を主たる業務とする特別事務職を、加藤は渉外係を、松岡は支店長代理として渉外係をそれぞれ担当していた。本件各契約に関して、政金は原告ら全員を担当し、岡部は原告定子及び原告信男を担当し、加藤は原告栁下を担当し、松岡は原告中島らを担当した。
(二) 遠藤廣二(「遠藤」という。)は、被告代理社の横浜営業部に所属し、変額保険募集員の資格を有し、本件変額保険契約に際し原告らを担当した。
4 本件各契約の成立
(一) 原告三浦ら
(1) 原告定子は、平成元年一一月二四日、横浜銀行から手形貸付取引約定に基づき、一億六三〇〇万円を借り受けた。
(2) 原告定子は、右同日、右貸付金の中から、被告明治生命に一億六一六七万六〇〇〇円の保険料を払い込み、同被告との間で同年一二月一日を契約日として、左記のとおり本件変額保険契約を締結した。
記
記号・証券番号 三一―四九六七八九
被保険者 原告定子
死亡保険金受取人 原告一男
保険金額 三億円
保険料 一億六一六七万六〇〇〇円
保険料払込方法 一時払い
保険期間 終身
(3) 原告定子は、平成元年一一月一七日付で、被告横浜信用保証との間で、後記本件カードローン契約に基づいて同原告が被告横浜銀行に対し負担する前記債務につき、被告横浜信用保証が右債務を保証することを内容とする保証委託契約を締結した。
そして、同年一二月二五日付で、右保証委託契約に基づく同原告の被告横浜信用保証に対する求償債務を担保するために、原告三浦らは、別紙物件目録一記載の不動産につき、左記のとおり根抵当権設定契約を締結し、これに基づき別紙登記目録一記載の登記をした。
記
設定者 原告定子、原告一男、原告丹花商事
債務者 原告定子
極度額 三億三〇〇〇万円
被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権
(4) 原告定子は、平成元年一二月二五日を契約日として、被告横浜銀行との間で、「<はまぎん>カードローン(随時返済・変動金利型)」(「本件融資契約」という。)を締結し、これにより前記(1)記載の借入金を返済し、同日以降別紙借入状況記載のとおりカードローン取引を行っている。
記
借入極度額 三億円
借入利率 取引規定に定める基準利率
弁済方法 随時返済
指定口座 被告横浜銀行小田原支店普通預金
口座番号 一〇三九二〇一
(二) 原告小川ら
(1) 原告信男は、平成元年一一月二四日、被告横浜銀行から手形貸付取引約定に基づき、二億二六九三万九七九〇円を借り受けた。
(2) 原告信男は、右同日、右貸付金の中から、被告明治生命に二億二六七二万八〇〇〇円の保険料を払い込み、同被告との間で同年一二月一日を契約日として、左記のとおり本件変額保険契約を締結した。
記
記号・証券番号 三一―四九六七九一
被保険者 原告信男
死亡保険金受取人 小川暉隆
保険金額 三億円
保険料 二億二六七二万八〇〇〇円
保険料払込方法 一時払い
保険期間 終身
(3) 原告信男は、同年一一月二四日付で、被告横浜信用保証との間で、後記本件カードローン契約に基づいて同原告が被告横浜銀行に対し負担する債務につき、被告横浜信用保証が右債務を保証することを内容とする保証委託契約を締結し、平成二年一月八日付で、右保証委託契約に基づく同原告の被告横浜信用保証に対する求償債務を担保するために、別紙物件目録二記載の不動産及びその他の不動産につき、左記のとおり根抵当権設定契約を締結し、これに基づき別紙登記目録二記載の登記をした。
記
設定者 原告信男、原告丸信商事
債務者 原告信男
極度額 四億四〇〇〇万円
被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権
(4) 原告信男は、平成元年一二月二八日を契約日として、被告横浜銀行との間で、本件融資契約を締結し、これにより前記(1)記載の借入金を返済し、同日以降別紙借入状況記載のとおりカードローン取引を行っている。
記
借入極度額 四億円
借入利率 取引規定に定める基準利率
弁済方法 随時返済
指定口座 被告横浜銀行小田原支店普通預金
口座番号 一〇四四二三九
(三) 原告栁下
(1) 原告栁下は、平成元年一一月二四日、被告横浜銀行から手形貸付取引約定に基づき、二億三九九三万九七九〇円を借り受けた。
(2) 原告栁下は、右同日、右貸付金の中から、被告明治生命に二億三五〇六万二〇〇〇円の保険料を払い込み、同被告との間で同年一二月一日を契約日として、左記のとおり本件変額保険契約を締結した。
記
記号・証券番号 三一―四九六七九〇
被保険者 原告栁下
死亡保険金受取人 栁下イマ子
保険金額 三億円
保険料 二億三五〇六万二〇〇〇円
保険料払込方法 一時払い
保険期間 終身
(3) 原告栁下は、同年一一月二四日付で、被告横浜信用保証との間で、後記本件カードローン契約に基づいて同原告が被告横浜銀行に対し負担する債務につき、被告横浜信用保証が右債務を保証することを内容とする保証委託契約を締結し、同年一二月二八日付で、右保証委託契約に基づく同原告の被告横浜信用保証に対する求償債務を担保するために、別紙物件目録三記載の不動産及びその他の不動産につき、左記のとおり根抵当権設定契約を締結し、これに基づき別紙登記目録三記載の登記をした。
記
設定者 原告栁下
債務者 原告栁下
極度額 四億円
被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権
(4) 原告栁下は、平成元年一二月二八日を契約日として、被告横浜銀行との間で、本件融資契約を締結し、これにより前記(1)記載の借入金を返済し、同日以降別紙借入状況記載のとおりカードローン取引を行っている。
記
借入金極度額 三億六〇〇〇万円
借入利率 取引規定に定める基準利率
弁済方法 随時返済
指定口座 被告横浜銀行小田原支店普通預金
口座番号 一〇三九一三六
(四) 原告中島ら
(1) 原告サイは、平成元年一一月二四日、被告横浜銀行から手形貸付取引約定に基づき、一億九九七四万円を借り受けた。
(2) 原告サイは、右同日、右貸付金の中から、被告明治生命に金一億九九七四万三〇〇〇円の保険料を払い込み、同被告との間で、同年一二月一日を契約日として、左記のとおり本件変額保険契約を締結した。
記
記号・証券番号 三一―四九六八三〇
被保険者 原告サイ
死亡保険金受取人 原告
保険金額 三億円
保険料 一億九九七四万三〇〇〇円
保険料払込方法 一時払い
保険期間 終身
(3) 原告サイは、同年一一月二四日付で、被告横浜信用保証との間で、後記本件カードローン契約に基づいて同原告が被告横浜銀行に対し負担する債務につき、被告横浜信用保証が右債務を保証することを内容とする保証委託契約を締結した。
そして、同年一二月二八日付で、右保証委託契約に基づく同原告の被告横浜信用保証に対する求償債務を担保するために、原告中島らは、別紙物件目録四1記載の不動産につき、左記のとおり根抵当権設定契約を締結し、これに基づき別紙登記目録四1記載の登記をした。
記
設定者 原告サイ、原告
債務者 原告サイ
極度額 二億七五〇〇万円
被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権
(4) 原告サイは、平成元年一二月二八日を契約日として、被告横浜銀行との間で、本件融資契約を締結し、これにより前記(1)記載の借入金を返済し、同日以降別紙借入状況記載のとおりカードローン取引を行っている。
記
借入極度額 二億五〇〇〇万円
借入利率 取引規定に定める基準利率
弁済方法 随時返済
指定口座 被告横浜銀行小田原支店普通預金
口座番号 一〇四四一四〇
(5) さらに、原告サイは、平成二年六月二一日、被告横浜信用保証との間で、前記(3)記載の同原告の被告横浜信用保証に対する求償債務を担保するために、別紙物件目録四2記載の不動産につき、左記のとおり根抵当権設定契約を締結し、これに基づき別紙登記目録四2記載の登記をした。
記
設定者 原告サイ
債務者 原告サイ
極度額 二億七五〇〇万円
被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権
二 原告らの主張
1 被告らの提携、協力関係による一体性
(一)(1) 被告明治生命は、FP(フィナンシャル・プラン)戦略の中核として一時払い変額保険契約とその保険料の支払いにつき金融機関からの金銭消費貸借契約をセットとして「RITプラン」と名付け、これを金融機関との提携商品で「保険料を一銭も払わずに、高額の相続税対策資金が準備できる理想の相続対策プラン」とし、被告代理社の中田庸穂部長は、平成元年夏ころ、被告横浜銀行にセールス商品として右一時払い変額保険を持ち込み、被告横浜銀行は、そのセールスを行うことを決定した。
(2) 他方、被告横浜銀行は、平成元年七月三一日付け社内通達で、相続税対策に有効な新事例として借入金による一時払い変額保険加入を取り上げて、資産家、高額所得者らに提案型セールスをするように求め、本店個人金融部内個人財務相談チーム(「FAチーム」という。)が提案書作成、同行訪問などを支援するとし、さらに、同年一一月付け社内通達で、被告代理社作成のシミュレーションを転用して一時払い変額保険の概要を説明した上、変額保険に伴う保険料ローンの取扱実績を同年一一月一七日までに本店個人金融部に報告するよう要求した。そして、FAチームは、平成元年上期から、営業店の渉外担当者に対して税務に関する研修をし、営業店単位では、生命保険会社の社員を講師に招いて従業員を対象とした変額保険の講習を行っていた。
(3) 被告横浜銀行は、顧客の家族構成や資産状況に応じて、一時払い保険料の融資契約と一体となった変額保険に加入した場合とそうでない場合のシミュレーションである「相続財産概要」を作成し、従業員に渡して勧誘に使用させ、変額保険に加入する顧客を被告代理社に紹介する際には、顧客の家族関係や資産等の情報も一緒に伝え、それをもとに被告代理社もシミュレーションを作成していたが、それ以前に被告横浜銀行が独自のシミュレーションを作成し、勧誘に用いていた。
(4) ところで、被告代理社の保険外交員は、平成元年ころより、被告横浜銀行から変額保険加入者の紹介を受けた謝礼として、被告横浜銀行のダミー会社である株式会社朋栄(「朋栄」という。)に、紹介手数料を支払っていたが、その実態は、被告横浜銀行員が、融資契約をも含めた一時払い変額保険の加入を顧客に対して勧誘し、顧客の保険加入の意思を生じさせた後に被告代理社の保険外交員に連絡し、同保険外交員は、契約書作成時だけ一緒に立ち会うというもので、変額保険契約が成立すると、同保険外交員から朋栄に対し、基本保険金額三億円当たり金九六万円程度の紹介手数料(変額保険販売に対する報酬)が支払われ、さらに、同保険外交員は被告横浜銀行に対して「協力預金」と称される通知預金を強いられていた、という関係にあった。
(二) 本件においては、まず、被告横浜銀行の担当者が、勧誘対象となる原告らを選別したうえで、被告代理社作成の「銀行借入金利用一時払終身保険による相続税納税資金繰りシミュレーション(A―1)」(「シミュレーション」という。)及び被告横浜銀行作成の「相続財産概要」(「相続財産概要」という。)を原告らに交付ないし提示して変額保険のメリット部分のみを強調した勧誘行為を行い、原告らの基本保険金額を三億円と決定し、次に、原告らが保険加入の意思を固めた段階で、遠藤に加入者の資産状況や家族構成等の情報を伝えるとともに、健康診断の日を設定するように依頼し、右健康診断の際には、被告横浜銀行の担当者も立ち会い、そして、遠藤は、原告らの各保険契約が成立した後の平成元年一二月二五日、被告代理社のマニュアルに基づいて契約者一人当たり九六万円(合計三八四万円)の紹介手数料を前記中田部長名義の銀行口座に振込み、同月二八日には、右紹介手数料に対する消費税合計一一万五二〇〇円も振込み、これらは中田部長から朋栄に支払われ、その後、被告横浜銀行小田原支店に還元されている。さらに、被告代理社横浜営業部の斉藤弘之が被告代理社本社に対して被告横浜銀行小田原支店への通知預金(一億円を一週間)を依頼し、これは実行された。
2 原告三浦らの主張
(一) 被告らの勧誘状況
(1) 銀行員の勧誘
岡部及び政金は、平成元年一〇月から一一月にかけて原告定子方を何度も訪問し、変額保険の危険性、特に、一時払い保険料の融資契約と抱合わせになった場合の危険性について知りながら、そのリスク、変額保険の「変額」の意味及び「変額」という名称は伏せたままで、同原告に対し、「このままでは相続税の負担が大変だ。是非借金をして保険に加入しなさい。借金をして保険に加入すれば、相続税が安くなるし、返済は保険金でカバーできる。この保険は一〇年、二〇年生きても絶対に損はしない。ご安心下さい。」等と繰り返し変額保険への加入を勧誘した。原告定子が、遺産はそれほどないから相続税に対して不安はないことを理由に変額保険の加入を断ると、政金及び岡部は、原告一男及び原告丹花商事所有の物件の登記簿謄本を取得してきて、「事業資金として借りたっていい。この不動産を担保に入れればいい。近所に住む小川信男、神尾らも保険に加入したので絶対心配ない。」と勧誘し、これにより原告定子は、本件変額保険加入を決意し、平成元年一一月七日に、岡部同席のもと、医師の健康審査を受け、同日、変額保険加入申込書に署名した。
(2) 保険募集人の説明
遠藤は、平成元年一一月九日ころ、岡部とともに原告定子方を訪問し、同原告に対して、九パーセントの利回りを前提としたシミュレーションのみを渡し、おざなりな説明を数分間行っただけで、パンフレット、設計書、「ご契約のしおり 定款・約款」は交付せず、変額保険の仕組み及び危険性について一切説明しなかった。
(二) 被告らの責任
(1) 原告定子は、政金らから「借金は保険金でカバーできる。」ので相続発生時の保険金額は借入金の元利金を上回る仕組みになっている旨説明され、その旨誤信して本件変額保険に加入する旨の意思表示をした。右錯誤は、変額保険契約については保険金額についての錯誤であり、融資契約については返済条件に関する錯誤であって、これらは、法律行為の要素についての錯誤である。仮にそうでないとしても、変額保険契約及び融資契約を締結するについての重要な動機となっており、政金らは、右説明をしたのであるから、被告横浜銀行は、契約の勧誘にあたって原告定子の右錯誤につき認識があった。また遠藤は、被告横浜銀行が本件変額保険と融資契約を一体として販売していることを知っていたから、被告明治生命、同代理社には同原告の右錯誤につき認識可能性はあったし、右動機の点は表示されている。よって、同原告の本件各契約締結の意思表示には要素の錯誤があって無効である。
仮に、被告らの右説明が、被告らにとっても変額保険契約及び融資契約を締結する前提であった場合には、被告らも同原告と同様の錯誤に陥っていたこととなり、共通の錯誤として無効になる。
また、原告定子の右意思表示は、被告横浜銀行の行員が虚偽の説明をし、被告代理社の保険募集人が後記の説明義務を果たさず原告定子の誤解を解かなかったという欺罔行為によりなされたものであるから、原告三浦らは、本訴状をもって、詐欺を理由に本件各契約を取り消す旨の意思表示をした。
(2) 被告横浜銀行は、銀行法及び募取法によって銀行員の保険勧誘行為自体が禁止されていたにもかかわらず、後記のような募取法に違反する勧誘行為を組織的に行い、この種の契約の知識及び経験等が全くなく、年齢、学歴等からしても本件変額保険のような高額契約締結の適格性を欠く原告定子を変額保険に加入させ高リスクを負担させる一方、自らは利益を得、あまつさえ、変額保険に伴う融資契約の借入枠を利用して原告定子に借金をさせて定期預金させるなど、銀行の高度の公共性とそれに対する信頼性を悪用した。よって、本件各契約は公序良俗違反により無効である。
(3) 変額保険は、特別勘定の運用実績によって保険金額が変動し、そのリスクは保険契約者に帰属するという新種の保険であって、これを販売する保険募集人は、変額保険契約に付随する信義則上の義務として、変額保険の仕組み(①保険金額の増減と基本保険金額(最低死亡保証額)の関係、②特別勘定の資産運用方針・投資対象、③特別勘定資産の評価方法、④特別勘定の運用実績が〇%、4.5%、九%の場合についての保険額の試算例、⑤解約返戻金額及び満期保険金額が保証されていないこと)、変額保険のリスク(保険金額が有価証券市場などの相場の変動と連動し、相場の下落によっては変動保険金額がマイナスになる元本割れの危険があること)、さらに、保険料全額を銀行から借り入れて一時払い終身型の変額保険に加入する場合のリスク(特別勘定の運用利益が一定の水準に達しないと、右借入金元金及びこれに対する利息が死亡時保険金を超過して担保の土地を処分してもなお借入金が残ること)を事前に説明する義務があるところ、遠藤は、同原告に対し事前に変額保険の説明をしておらず、説明義務の不履行があり、また仮に、説明があったとしても、変額保険の商品特性及び保険と借入元利金債務額との関係について説明義務の不履行がある。
また、被告横浜銀行は、セット商品としての変額保険を被告明治生命及び被告代理社と提携販売することによって積極的にその売り込みに関わってきたのであるから、岡部及び政金にも遠藤と同様、前記説明義務が課されている。ところが、岡部らは、原告定子の勧誘の際に「変額保険」という言葉すら使わず、変額保険の商品特性について全く説明していないし、さらに、保険と借入元利金債務額との関係について「借金しておいても保険金でカバーできる。」、「どんなに長生きしても大丈夫。」などと客観性、正確性に乏しい説明に終始しているもので、保護義務に違反する。
原告定子の契約締結の目的は、保険金で借金返済を賄うことができ、しかも相続税が安くなるということであるから、説明義務が尽くされていたならば、同原告は契約を締結しなかったであろうと考えられ、したがって、説明義務の履行は契約目的達成の必須の前提条件であって、契約の要素たる債務というべきであり、しかも、右債務は契約締結前において履行されなければならないものであり、右債務の不履行によって契約目的は達成されないとみるべきであるから、原告三浦らは、本訴状をもって、履行不能に準じて契約締結上の過失に基づき本件各契約を解除する旨の意思表示をした。
仮に、右説明義務が要素たる債務ではなく付随的債務であっても、原告定子は、岡部及び政金が変額保険の内容及び借入金元利債務額との関係を説明せず、又は積極的な勧誘行為において虚偽の説明をしたことにより本件変額保険に加入し、変額保険料支払いのための借入金が増加して基本保険金額を超過するのが確実な状況にあることを考慮すれば、付随的債務の不履行が解除原因となるべき特段の事情があるから、原告三浦らは本件各契約を解除することができるというべきである。
(4) 被告らの不法行為
岡部、政金及び遠藤は、原告定子の本件変額保険の勧誘にあたり、故意又は少なくとも過失により、以下のとおりの違法行為を行った。
ア 登録制度違反等
生命保険の「募集」には、直接の募集行為はもちろん見込み客を募集人に紹介することなど契約の誘因行為の全てを包含するところ、政金及び岡部は、銀行員であって登録を受けた生命保険募集人ではなく、かつ、生命保険協会が認定した変額保険販売資格を有しないにもかかわらず原告定子に対しメリットのみを強調した相続対策にいい保険として本件変額保険を勧誘、説明し、遠藤に同原告を紹介している。これらは「募集」に該当する行為であって、銀行の他業を禁止した銀行法一二条、生命保険を募集できる者を生命保険募集人に制限した募取法九条に違反する。
イ 虚偽説明、契約条項の不完全説明
政金及び岡部は、本件変額保険の勧誘に際して同原告に対し「絶対に損はさせない。どんなに長生きしても大丈夫。」と断言し、融資を受けて右保険に加入しても、絶対「持ち出し」のない安全な商品であるとの虚偽説明を行っており、かかる行為は募取法一六条一項一号及び将来の運用成績についての断定的判断を提供する行為として通達(昭和六一年七月一〇日蔵銀第一九三三号)に違反する。さらに、政金、岡部及び遠藤は、本件変額保険の勧誘の際、保険業界の自主規制で定められた変額保険の仕組みについての説明(①保険金額の増減と基本保険金額(最低死亡保証額)の関係、②特別勘定の資産運用方針・投資対象、③特別勘定資産の評価方法、④特別勘定の運用実績が〇%、4.5%、九%の場合についての保険額の試算例、⑤解約返戻金額及び満期保険金額が保証されていないこと)すらしておらず、募取法一六条一項一号に違反する。
ウ シミュレーションの違法性
遠藤が同原告に渡したシミュレーションは「募集のため又は募集を容易ならしめるため使用される文書」にあたるところ、右文書には保険会社の商号若しくは名称、生命保険募集人の商号若しくは名称の記載が一切なく、募取法一四条に違反する。また、右シミュレーションは特別勘定の運用利回りが九パーセントとしてのみ作成されており、「将来における利益の配当又は余剰金の分配に付いての予想に関する事項」の記載にあたり、募取法一五条二項に違反する。
エ 説明義務違反
遠藤、政金、岡部には、前記のとおり、説明義務違反がある。
(5) 被告横浜銀行の使用者責任
岡部及び政金は、被告横浜銀行の融資業務を執行するにつき前記違法行為を行ったものであるから、被告横浜銀行は、岡部及び政金の行為につき民法七一五条の使用者責任を負う。
(6) 被告代理社の使用者責任
遠藤は、被告代理社の生命保険の募集に関する業務を執行するにつき、被告横浜銀行と被告代理社の提携のもと岡部、政金らと共同して前記の違法行為を行ったものであるから、被告代理社は、遠藤の違法行為につき民法七一五条の使用者責任を負う。
(7) 被告明治生命の募取法一一条責任
遠藤は、被告明治生命の生命保険募集人に当たり、同被告を保険者とする本件変額保険契約の媒介をするにつき、岡部、政金らと共同して前記の違法行為を行ったものであり、その結果原告らに損害を与えた。したがって、同被告は、遠藤の不法行為につき募取法一一条の責任を負う。
(8) 被告らの法人としての不法行為
被告らは、その各従業員らに違法手段をもって本件変額保険を勧誘することを指示し、組織的にこれを推進していた。したがって、被告らの各従業員らの違法行為は、法人活動の一環としての側面も有し、被告らには法人としての共同不法行為が成立し、民法七一九条、同七〇九条によって原告らの損害全額の賠償義務を負う。
(三) 損害
原告三浦らは、被告横浜銀行及び被告代理社の各従業員らの共同した違法な勧誘により、本件各契約を締結させられ、原告定子は、別紙損害目録1記載の払込保険料、根抵当権設定登記費用、保証料、銀行手数料、印紙代、貸越利息などの損害を被った。
また、仮に、被告らの違法行為にもかかわらず本件各契約が有効である場合は、被告横浜銀行からの借入金は本訴提起時の元金の他に①元金の増加②解約日までの約定利息③解約日の翌日からの遅延損害金を加えたものとなり、一方、原告定子は、保険契約を解約すると解約返戻金を受取る権利を有しているから、この場合の損害は、別紙損害目録2記載のとおり、別紙損害目録1記載の損害金に右①ないし③の損害金を加算し、そこから解約返戻金相当額を控除した金額相当となる。
3 原告小川らの主張
(一) 被告らの勧誘状況
(1) 銀行員の勧誘
岡部は、平成元年一〇月六日、原告信男方を訪問し、近所の浅見宅で一六億円の相続税がかかったことを告げ、変額保険であることは伏せたまま確実な相続税対策として本件変額保険を紹介し、さらに同月九日、政金とともに同原告方を訪問し、同原告と小川タミに対し、遺産相続対策とダイナミック保険の担当者として政金を紹介した。そして、政金は、雑誌「マネージャパン」に掲載されている変額保険の紹介記事のコピーと運用利率が九パーセントを前提とした一般的なシミュレーション表を示しながら、「このままだと相続税が高額になる。浅見さんは相続税が一六億円になり、現在相続をめぐって裁判になっている。対策を立てないと大変なことになる。保険加入には年齢制限があり、加入できるのは明治生命だけだから早く入った方がいい。銀行融資で保険料を払えばいいから、金の持ち出しはないし、どんなに悪くても九パーセント以下になることは絶対にない。過去のデータからいっても絶対に大丈夫。この保険は非常に良い保険であり、急がないと枠がある。今月一杯で締め切られるから早くしなければいけない。」等と説明し、その後、岡部が同月一七日、二〇日と度々同原告宅を訪れ、その都度相続対策としてのダイナミック保険の加入を勧めたうえ、さらに、岡部と政金は、同月二三日、再び同原告方を訪問し、同原告と小川タミに対して、同原告の資産等をもとにした運用利率九パーセントを想定したシミュレーションを示し「利回りは絶対九パーセントを下回ることははない。銀行の融資は6.5パーセントなので非常にいい保険だ。」と説明した。
岡部は、同年一一月七日、医師とともに保険加入のための身体検査をすべく同原告方を訪れ、同原告の診察が行われている間に長男の暉隆に保険加入申込書に署名を、小川タミに「小川信男」と代署をそれぞれしてもらい、その後の同月二一日ころ、同原告方を再訪し、同原告に保険関係の書類に署名してもらったが、その際、銀行の融資金の返済については、保険が九パーセントで運用され、借入は6.5パーセントであるから同原告が支払う必要はないとして、返済条件等については一切説明しなかった。
(2) 保険募集人の説明
遠藤は、同年一一月九日、同原告方を訪問し、運用利率九パーセントを前提としたシミュレーションを同原告に交付して、「大丈夫です。九パーセント以下になることはありません。銀行の言っていることに間違いはありませんよ。」と説明したのみで、パンフレット、設計書、「ご契約のしおり 定款・約款」を交付せず、変額保険のリスクについても全く説明しなかった。
(二) 被告らの責任
(1) 原告信男は、被告らから銀行利息は6.5パーセントで保険の運用利回りは九パーセントであり、保険の運用利回りが銀行利息を上回る仕組みになっている旨説明され、その旨誤信して本件変額保険に加入する旨の意思表示をした。よって、同原告の本件各契約締結の意思表示は、原告定子の場合と同様に錯誤無効である。
仮に、被告らの右説明が、被告らにとっても変額保険契約及び融資契約を締結する前提であった場合には、被告らも同原告と同様に錯誤に陥っていたこととなり、共通の錯誤として無効となる。
また、原告信男の右意思表示は、被告横浜銀行の銀行員が虚偽の説明をし、被告代理社の保険募集人が説明義務を果たさず同原告の誤解を解かなかったという欺罔行為によりなされたものであり、同原告は、本訴状をもって、詐欺を理由に本件各契約を取り消す旨の意思表示をした。
(2) 同原告の本件各契約は、原告定子と同様に公序良俗違反があり無効である。
(3) 遠藤、政金及び岡部は、同原告に対し、原告定子に対するのと同様に変額保険の仕組み、変額保険のリスク、保険料全額を銀行から借り入れて一時払い終身型の変額保険に加入する場合のリスクについて事前に説明する義務を負っている。しかるに、遠藤らは、同原告が保険加入の意思表示をする前には全く変額保険の説明をしていないのであって、説明義務の不履行があり、加入申込み後の説明でも、「運用は九パーセント以下になることはない。」というだけで、変額保険の商品特性及び保険と借入元利金債務額との関係について説明義務を尽くさなかった。また、岡部及び政金は、勧誘の際に「変額保険」という言葉を一切使わず、政金は、借入金元利債務額との関係については一応の説明をしてはいるものの、保険の配当九パーセントと融資の金利6.5パーセントを単純に比較して必ず得をするかのような誤った説明をするなど、その説明は客観性、正確性に乏しく保護義務に違反する。
したがって、同原告は、本訴状をもって、原告定子と同様に履行不能に準じて契約締結上の過失に基づき本件各契約を解除する旨の意思表示をした。
(4) 被告らの不法行為
岡部、政金及び遠藤は、同原告の本件変額保険の勧誘にあたり、故意又は少なくとも過失により、以下のとおりの違法行為を行った。
ア 登録制度違反
岡部及び政金の変額保険勧誘行為は、原告定子の場合と同様、銀行法一二条及び募取法九条に違反する。
イ 虚偽説明、契約条項の不完全説明
政金は、原告信男に対して、九パーセントのシミュレーションを示して「それ以下に下がることは絶対ありません。」として保険が九パーセント以下で運用されることがあり得ないと断言し、「保険料はカードローンで対応するので金銭の持ち出しはなく、保険の運用利回り九パーセントと銀行金利の6.5パーセントの差が利得になる。」として銀行融資の元利合計が保険金を下回らないシステムになっているかのように勧誘した。これらの説明は虚偽説明に当たり、募取法一六条一項一号に違反し、さらに、政金、岡部及び遠藤は、原告定子に対してと同様に、本件変額保険の勧誘の際、保険業界の自主規制で定められた変額保険の仕組みについての説明すらしておらず、募取法一六条一項一号に違反する。
ウ シミュレーション等の違法性
政金らは、原告信男の勧誘に際して、マネージャパンの切り抜き、シミュレーション二種(一般的なもので運用九パーセントを前提とするもの及び同原告の具体的な財産を当てはめ運用九パーセントを前提とするもの)を示し、遠藤も、原告信男に対しシミュレーションを渡しているが、これらには、保険会社の商号若しくは名称、生命保険募集人の商号若しくは名称の記載が一切なく、募取法一四条に違反し、また、右シミュレーションが、特別勘定の運用利回りが九パーセントを前提としてのみ作成されていることは、募取法一五条二項に違反する。
エ 説明義務違反
遠藤、政金及び岡部には、前記のとおり、説明義務違反がある。
(5) 被告横浜銀行の使用者責任、被告代理社の使用者責任、被告明治生命の募取法一一条責任及び被告らの法人としての不法行為責任については、原告三浦らと同様である。
(三) 損害
原告小川らは、被告横浜銀行の従業員及び被告代理社従業員らの共同した違法な勧誘により、本件各契約を締結させられ、原告三浦らと同様に別紙損害目録1又は2記載の損害を被った。
4 原告栁下の主張
(一) 被告らの勧誘状況
(1) 銀行員の勧誘
加藤は、平成元年八月ころ、原告栁下方を訪れ、「変額保険」であるという説明はしないまま、「おじいさん生命保険に入りませんか。このままでは相続税が大変だ。相続税対策のために高齢者でも入れる保険がある。」と生命保険の加入を勧誘し、また、同年九月ころ、同原告の所有する不動産の登記簿謄本等を持参して、同原告とその妻に対して、「相続税対策として、土地を抵当に入れて生命保険に入らないか。抵当権がついている土地は相続税の対象にならない。借金をした方がいい。土地を担保に借金をして生命保険に入ると、借金の分相続税が安くなり、借金の返済は保険の運用でまかなえるから心配ない。」等と勧誘し、同年一〇月には、加藤のみならず政金も同原告方を訪れ、相続税対策になるといって銀行融資金による生命保険の加入を勧誘し、さらに、同年一〇月二八日、同原告方を訪ねて長男達蔵同席のうえ、変額保険を勧める週刊誌のコピーを示して、「貴方の資産からすると相続税は数億円になる。大変有利な保険があるから入った方がいい。関西方面で良い成果が上がっている。借金については、保険の運用で間違いなく返済できる。」とし、相続財産概要を見せて、「保険の配当が九パーセントで融資の金利が6.5パーセントであるから、このシステムが成立する。この機会を逃すと二度とチャンスはない。非常に良いシステムなのでこの機会にぜひ契約した方がいい。」と契約を迫り、その後も同原告方を訪れ、相続財産概要を示して、同原告とその妻に対し、「保険の締切が迫っている、この機会を逃すと二度とチャンスはない。」と契約締結を催促したが、保険の運用がうまくいかなくなる恐れがあるとか、借入金を返済できなくなる恐れがあるなどの危険性については一切説明しなかった。
同原告は、同年一一月中旬ころ、政金及び被告横浜銀行行員の渡辺明子の訪問を受けて、求められるまま幾つかの書類に署名したが、担保物件や必要書類については何の説明もなかった。その後、同月下旬ころ、政金及び加藤が、同原告方を訪れて借用証と引換えに同原告の権利証をもって行ったが、同年一二月になって、同原告が渡した権利証では不足しているし、内容も不明だとして、何度も他に権利証はないかと訪ねて来た。そして、被告横浜銀行は、同原告所有の四か所の土地の権利証を借用し自宅については保証書を用い、担保価値の高い宅地と駐車場の二か所の土地に一方的に根抵当権を設定してしまった。
(2) 保険募集人の説明
遠藤は、平成元年一一月初めころ、加藤と一緒に同原告方を訪問し、同原告にシミュレーションを示して、土地を担保に銀行から借金をして生命保険に入ると、どれだけ得かという話をしたが、右の際、パンフレット、設計書、「ご契約のしおり 定款・約款」は交付されず、「変額保険」という言葉の説明すらなく、変額保険の仕組み及び危険性について一切説明しなかった。
(二) 被告らの責任原因
(1) 原告栁下は、被告らから銀行利息は6.5パーセントで保険の運用利回りは九パーセントであり、保険の運用利回りが銀行利息を上回る仕組みになっている旨説明され、その旨誤信して本件変額保険に加入する旨の意思表示をした。よって、原告栁下の本件各契約締結の意思表示は、原告定子の場合と同様に錯誤無効である。
仮に、被告らの右説明が、被告らにとっても変額保険契約及び融資契約を締結する前提であった場合には、被告らも原告栁下と同様に錯誤に陥っていたこととなり、共通の錯誤として無効となる。
また、原告栁下の右意思表示は、被告横浜銀行行員が虚偽の説明をし、被告代理社の保険募集人が説明義務を果たさず同原告の誤解を解かなかったという欺罔行為によりなされたものであり、同原告は、本訴状をもって、詐欺を理由に本件各契約を取り消す旨の意思表示をした。
(2) 原告栁下の本件各契約は、原告定子と同様に公序良俗違反があるから無効である。
(3) 遠藤、政金及び加藤は、原告栁下に対し、原告定子に対するのと同様に、変額保険の仕組み、変額保険のリスク、保険料全額を銀行から借り入れて一時払い終身型の変額保険に加入する場合のリスクについて事前に説明する義務を負っている。
ところが、遠藤は、「変額保険」という言葉を使わず、得をすることのみを強調し、保険の運用、危険性の説明を全くしておらず、変額保険の商品特性及び保険と借入元利金債務額との関係について説明義務を尽くさなかった。また、加藤及び政金は、勧誘の際に「変額保険という言葉を一切使わず、加藤は、借入金元利債務額との関係については一応の説明をしてはいるものの、保険の配当九パーセントと融資の金利6.5パーセントを単純に比較して必ず得をするかのような誤った説明をするなど、その説明は客観性、正確性に乏しく保護義務に違反する。
したがって、原告栁下は、本訴状をもって、原告定子と同様に契約の履行不能に準じて契約締結上の過失に基づき本件各契約を解除する旨の意思表示をした。
(4) 被告らの不法行為
加藤、政金及び遠藤は、原告栁下の本件変額保険の勧誘にあたり、故意又は少なくとも過失により、以下のとおりの違法行為を行った。
ア 登録制度違反等
岡部及び政金が変額保険の勧誘を行うことが銀行法一二条及び募取法九条に違反することは原告定子と同様である。
イ 虚偽説明、契約条項の不完全説明
加藤及び政金は、同原告に対して、九パーセントのシミュレーションを示して保険料全額融資による保険加入というシステムに入れば融資利息の6.5パーセントは保険の配当九パーセントでまかなうことができ、死亡したときの保険金で借入金の返済ができる旨、あたかも銀行融資の元利合計が保険金を下回らないシステムになっているかのように勧誘し、遠藤も、同原告に対して、九パーセントのシミュレーションを示して、加藤らと同様の説明を繰り返した。これらの説明は虚偽説明にあたり、募取法一六条一項一号に違反する。さらに、加藤、政金及び遠藤は、原告定子に対してと同様に、本件変額保険の勧誘の際、保険業界の自主規制で定められた変額保険の仕組みについての説明すらしておらず、募取法一六条一項一号に違反する。
ウ シミュレーション等の違法性
加藤及び政金は、同原告への勧誘に際して、シミュレーションなどを示し、遠藤も、同原告に対しシミュレーションを渡しているが、これらには、保険会社の商号若しくは名称、生命保険募集人の商号若しくは名称の記載は一切なく、募取法一四条に違反し、また、右シミュレーションは、特別勘定の運用利回りが九パーセントを前提としてのみ作成されており、募取法一五条二項に違反する。
エ 説明義務違反
遠藤、政金及び加藤には、前記のとおり、説明義務違反がある。
(5) 被告横浜銀行の使用者責任、被告代理社の使用者責任、被告明治生命の募取法一一条責任及び被告らの法人としての不法行為責任については、原告三浦らと同様である。
(三) 損害
原告栁下は、被告横浜銀行の従業員及び被告代理社従業員らの共同した違法な勧誘により、本件各契約を締結させられ、原告三浦らと同様に別紙損害目録1又は2記載の損害を被った。
5 原告中島らの主張
(一) 被告らの勧誘状況
(1) 銀行員の勧誘
原告は、昭和六三年ころ、原告サイの所有する土地にビルを建設する計画を立て、被告横浜銀行小田原支店に融資等についてを相談したことがあったところ、同支店の担当者の富井正巳(「富井」という。)は、変額保険という名称は伏せて、その仕組みについても全く説明しないまま、相続税対策としては、マンションよりも生命保険が良いと保険を勧誘するようになり、さらに、「相続税対策として最も安全な保険で、高齢者でも加入でき、これを利用すれば土地を売らないで納税資金を作ることができる。保険金に九パーセントの配当がつくし、被告明治生命と被告横浜銀行が提携している商品で絶対安全です。横浜銀行が責任をもって勧めている。配当が非常に良いので大蔵省が来年三月に打ち切る予定であるから加入を急いだほうがいい。」等と勧誘し、シミュレーションを示して、そのプラス効果欄を使って、「資産を担保に一時払いで運用をやれば、一〇年たってもこのとおりです。」などとプラス効果を強調して変額保険への加入を勧誘した。
原告サイと原告及び原告の妹の中島敦子は、平成元年一〇月二四日、富井の指示を受けて前記支店を訪れ、原告サイと右敦子は、富井運転の自動車で健康診断に向かい、血圧測定のみの簡単な診査が終了すると、富井運転の自動車で帰宅した。一方、原告は、同支店に残り、保険契約申込書に署名押印したが、その際、被告横浜銀行の従業員が立会い被告代理社の遠藤はいなかった。
同年一一月には、原告の変額保険契約書類をもとにして被告横浜銀行からの保険料融資の手続がとられ、富井の後任者の松岡と原告との間で担保に関する交渉が行われたが、その際、松岡は、原告サイの資産情報をもとにした運用利率九パーセントのみを想定したシミュレーションを原告に示して、「保険金の配当は絶対に九パーセント以上になる。元利を下回ることはない。横浜銀行が自信をもって勧めることができる相続対策用の老人向け生命保険だ。横浜銀行を信用してほしい。」とまで述べて、保険料の融資契約を早く締結するように強く働きかけた。
原告サイは、同年一一月下旬ころ、自宅において、原告同席のもと融資等の関係書類に署名捺印し、同月二四日、融資が実行され、その後原告サイは、被告横浜銀行から富水の土地の追加担保を要求され、原告は、そこまで担保を要求するなら契約はしないと拒否したものの、平成二年六月二一日、原告サイは、追加担保として別紙不動産目録四2記載の各建物に根抵当権を設定した。
(2) 保険募集人の説明
遠藤は、変額保険契約締結前、原告の職場であるTVKテレビに代理の者を一度派遣してきただけで、変額保険の説明はしていない。
原告が遠藤と会ったのは、変額保険契約締結後の平成元年一〇月三一日、遠藤が同原告の職場を訪ねて来たときであるが、その際、遠藤が変額保険の説明をしたのは数分に過ぎず、既に契約がなされていたことから、その内容は基本保険金が死亡時に保証されるということだけで、他は雑談に終始した。
(二) 被告らの責任原因
(1) 原告中島らは、被告らから保険金の配当は九パーセント以上出て、銀行利息を上回る仕組みになっている旨説明され、その旨誤信して本件変額保険に加入する旨の意思表示をした。この原告中島らの本件各契約締結の意思表示は、原告定子の場合と同様に錯誤無効である。
仮に、被告らの右説明が、被告らにとっても変額保険契約及び融資契約を締結する前提であった場合には、被告らも原告中島らと同様に錯誤に陥っていたこととなり、共通の錯誤として無効になる。
また、原告中島らの右意思表示は、被告横浜銀行行員が虚偽の説明をし、被告代理社の保険募集人が説明義務を果たさず同原告らの誤解を解かなかったという欺罔行為によりなされたものであり、同原告らは、本訴状をもって、詐欺を理由に本件各契約を取り消す旨の意思表示をした。
(2) 原告中島らの本件各契約は、原告定子と同様に公序良俗違反があるから無効である。
(3) 遠藤及び富井は、原告中島らに対し、原告定子に対するのと同様に、変額保険の仕組み、変額保険のリスク、保険料全額を銀行から借り入れて一時払い終身型の変額保険に加入する場合のリスクについて事前に説明する義務を負っている。
ところが、遠藤は、変額保険につき全く説明せず、変額保険の商品特性及び保険と借入元利金債務額との関係について説明義務を尽くさなかった。また、富井も、変額保険の仕組みについて全く説明せず、借入金元利債務額との関係については一応の説明をしてはいるものの、保険の配当九パーセントが付くので大丈夫ですと断言するなど、その説明は客観性、正確性に乏しく保護義務に違反する。
したがって、原告中島らは、本訴状をもって、原告定子と同様に履行不能に準じ契約締結上の過失に基づき本件各契約を解除する旨の意思表示をした。
(4) 被告らの不法行為
富井、松岡及び遠藤は、原告中島らの本件変額保険の勧誘にあたり、故意又は少なくとも過失により、以下のとおりの違法行為を行った。
ア 登録制度違反等
富井及び松岡が変額保険の勧誘を行うことが銀行法一二条及び募取法九条に違反することは原告定子と同様である。
イ 虚偽説明、契約条項の不完全説明
富井及び松岡は、原告に対して、九パーセントのシミュレーションを示し、この保険料全額融資による保険加入というシステムに入れば、三億円の保険金に九パーセント以上の配当がつき、その保険金から借入金を支払うことができると説明し、さらに被告明治生命と被告横浜銀行の提携商品だから絶対安全などと、あたかも銀行融資の元利合計が保険金を下回らないシステムになっているかのように勧誘し、これらの説明は虚偽説明にあたり、募取法一六条一項一号に違反する。また、富井及び松岡は、本件変額保険の勧誘の際、保険業界の自主規制で定められた変額保険の仕組みについての説明すらしておらず、遠藤は、原告の契約申込み以前に、原告中島らに会ってもいないのであって、募取法一六条一項一号に違反する。
ウ シミュレーション等の違法性
富井及び松岡は、原告中島らへの勧誘に際して、シミュレーションなどを示しているが、これらには、保険会社の商号若しくは名称、生命保険募集人の商号若しくは名称の記載は一切なく、募取法一四条に違反し、また、右シミュレーションは、特別勘定の運用利回りが九パーセントとしてのみ作成されており、募取法一五条二項に違反する。
エ 説明義務違反
遠藤、富井及び松岡には、前記のとおり、説明義務違反がある。
(5) 被告横浜銀行の使用者責任、被告代理社の使用者責任、被告明治生命の募取法一一条責任及び被告らの法人としての不法行為責任については原告三浦らと同様である。
(三) 損害
原告中島らは、被告横浜銀行の従業員及び被告代理社従業員らの共同した違法な勧誘により、原告三浦らと同様に別紙損害目録1又は2記載のとおりの損害を被った。
6 過失相殺についての原告らの主張
本件は、各契約自体が無効であって、不法行為に基づく損害賠償請求についても過失相殺は考えられず、また、不法行為の態様は、刑罰法規に違反しているだけでなく、募取法にことごとく違反していて極めて悪質であるから被害者の過失は問題になる余地がない。
仮に被害者の過失を考慮するとしても、原告らの誤信は被告らの違法な勧誘行為によってもたらされたもので原告らのみを軽率と評価すべきではなく、原告らの信頼対象となった銀行や保険会社は、公共性と専門性を有する一方、原告らは、いずれも同種取引についての知識、経験もなく、年齢、学歴、職業等からして本件変額保険のような複雑かつ高リスクの巨額な契約を締結する適格性はなかったものである。また、原告らが本件変額保険を解約せず、損害が拡大したが、解約は、本件変額保険契約の有効性を前提とする行為であり、かつ、その時点での借入金元利金と解約返戻金との差額の損害発生を確定させてしまう行為であって、そのようなリスクを負う原告らに本件変額保険契約を解約するとの判断を強いることはできないものであるから、この点につき原告らの過失は存在しない。
したがって、原告らについて過失相殺するのは相当ではない。
三 被告らの主張
1 契約の一体関係について
(一) 被告横浜銀行
被告横浜銀行は、定期預金の切替えや預金勧誘のため得意先を訪問した際に、原告らから相談を受けて変額保険を紹介しただけであり、保険会社との提携関係下の勧誘は行っていない。朋栄には、被告横浜銀行のOBが一、二名役員として入っているが、子会社ではない。また、社内通達等は、借入金による一時払い変額保険に加入したい者があり、返済の見込みが確実であれば、その者を優良貸付先として開拓してよいという趣旨に過ぎないし、相続税を心配している顧客に対し、その希望に沿って税額の計算サービスをしたことはあるが、変額保険勧誘のために相続財産概要を作成したことはない。
(二) 被告明治生命及び被告代理社
被告明治生命は、被告横浜銀行から原告らの紹介を受け、同被告が提供した資料によってシミュレーションを作成したことはあるが、同被告と一体となった勧誘システムはない。被告横浜銀行の変額保険の紹介先は、被告明治生命(被告代理社含む。)だけではないし、銀行がその業務方針にしたがって取引先に対していかなる紹介をするかは、銀行としての判断であり、保険会社としてそれに関与すべきではない。
原告らと被告横浜銀行間の金銭消費貸借契約、原告らと被告明治生命間の変額保険契約は別個の契約であり、原告らの主張には根拠がない。
2 本件各契約の締結経緯及び勧誘状況
(一) 原告三浦ら
(1) 被告横浜銀行及び被告横浜信用保証
岡部は、平成元年一〇月ころ、原告定子に対し、相続対策として変額保険というものがあり、保険料は銀行が融資し、枠を設定して利息はその中で支払うので、お金の持ち出しはないと紹介し、同月一七日、今度は政金と同行して同原告方を訪ね、「変額保険は高利回りで、その保険料は現状九パーセントで運用されているようだが、景気によっては、その運用利率は上がりも下がりもし、リスクがある。その詳細の説明は保険会社にしてもらいましょう。」と説明した。これに対し同原告は、銀行が融資してくれるのならば、保険は限度一杯入りたいとし、生命保険会社については、原告信男と同じ会社にするよう希望した。そこで、政金は、保険に入るには健康審査に合格しなければならないこと、融資する場合には担保が必要であることを説明し、同原告は、自宅及びガソリンスタンドとして湯川商事に貸している土地と建物を担保に入れることを希望した。
政金は、そのころ、原告定子が変額保険の説明を希望していることを遠藤に電話し、遠藤から政金に対し、同原告のところに変額保険の説明に行ってきたとの電話があり、岡部が、その後の同年一一月七日、遠藤から求められて、同人が伴った医師とともに、同原告方へ同行した。
政金は、同月一六日、遠藤から同原告が健康審査に合格したので融資手続を進めて欲しいとの電話連絡を受け、融資手続を進めるべく担保物件の登記簿謄本をとったところ、湯川商事に貸している土地上の建物は同原告の名義ではなく湯川商事の名義になっていて、いわゆる底地であったため、担保として取得できないことが判明した。そこで、政金らは、同原告方を訪問し、担保がないので融資できないと説明したところ、同原告が、健康審査に合格したのだから保険に入りたいとして、自分名義では適切な物件がないのなら原告一男名義の物件及び原告丹花商事の物件を担保にすることにしたいとのことであったので、原告定子名義の物件でなければ相続税対策にならないので本部と協議することとして帰店し、翌一七日、右のことを本部に相談したところ、担保があり本人が希望すればよいのではないかとの回答を得たので、同原告方を訪問し、同原告の申し出た原告一男名義の物件及び原告丹花商事の物件を担保にして融資すると回答し、融資のための関係書類を原告定子から徴収して、同月二四日、融資を実行した。
(2) 被告明治生命及び被告代理社
遠藤は、被告横浜銀行の岡部又は政金から、原告信男と同じころに、原告定子の紹介を受けたが、被告横浜銀行の説明では、同原告は、変額保険は今までの保険と異なり特別勘定で運用することなど、変額保険の主要部分について被告横浜銀行からある程度の説明を受けており、変額保険に加入する意思を有し、保険会社の説明を聞いてみたいと希望しているとのことであった。
遠藤は、平成元年一一月二日、原告信男方を訪問した後の午後三時ころ、岡部とともに原告定子方を訪問し、同原告に対して約二〇分にわたり変額保険の説明をした。具体的には、説明資料として、変額保険のパンフレット、設計書(特別勘定の運用実績が〇%、4.5%、9.0%に分けて保険金及び解約返戻金の推移を記載したもの。同原告の場合は、基本保険金額を三億円とし、保険加入者の年齢に応じた保険料と特別勘定の運用実績に応じた数値の推移が記載されることになる。)及びシミュレーションを使用して変額保険の性質等を説明し、また、パンフレット及び設計書を並べて示し、パンフレットの中では、特に「生涯の備え」の部分を相続の話とともに詳しく説明し、その他、「変額保険とは」「特別勘定とは」「ご契約例 変額保険のしくみ」「特別勘定の運用実績例表」の部分を指して説明し、設計書についても、主要な項目はすべて指して説明した。シミュレーションについては、既に同じものが被告横浜銀行を通じて同原告に渡されていたが、遠藤は、「土地」(の評価)「課税価格」「相続税」「課税対象保険金」「借入金残高」「プラス効果」などの項目を指し示して改めて詳しく説明した。さらに、同原告に変額保険のハイリスク・ハイリターンの性質を「損・得」という表現を用いて説明し、「損・得」が生じる理由として、特別勘定の運用実績如何によるものであることを説明した。加えて、変額保険金の意味、マイナスになることがある点、運用が悪いときに解約すると損をすることがあることを、パンフレットの図表を使って説明し、このパンフレットを同原告に渡したが、これら遠藤の説明について同原告から特に質問はなく、同原告は、相続税について不安を抱いていると話し、変額保険については既にある程度の理解を有していた。そして、遠藤は、同日、同原告に対し、変額保険契約加入申込用紙と「ご契約のしおり 定款・約款」を渡した。
同月七日、遠藤立会いのもと、被告明治生命の社医により同原告の健康審査が行われ、同原告は、同日付けの変額保険加入申込書を作成して遠藤に渡し、その後の同月二八日、遠藤は保険料の領収書を同原告に届けた。
(二) 原告小川ら
(1) 被告横浜銀行及び被告横浜信用保証
原告信男は、近所の農家の浅見方で昭和六三年一二月ころ相続が発生し、二億円の相続税が徴収されたことから、相続税対策に関心を持ち、新潟の投資用賃貸物件について現地まで出向いて物件を検分したり、家賃動向を調査するなど相続税対策を考えており、岡部が預金等の書換で同原告方を訪問した際には、被告横浜銀行に、物件購入が決まったら融資を頼むと依頼し、また、同原告の土地を有効活用し外食産業に賃貸するため不動産管理会社である原告丸信商事を設立し、経営しているという話もした。
そこで、政金と岡部は、平成元年一〇月九日、同原告方を訪問した際、「土地活用による相続対策は三年の規制があるが、変額保険は即効性があるし、保険料は一括払いであるが保険料は不動産に担保を設定し被告銀行のカードローンで対応するので利息も貸越で賄えて金銭の持ち出しはない。」と説明して変額保険を紹介し、同原告は検討すると返答した。
その後、同月二三日までの間に、政金と岡部は、雑誌「マネージャパン」の写しを持参して同原告宅を訪問し、「変額保険は高利回で、その保険料は現状九パーセントで運用されているようだ。ただ、景気によってはその運用利率は上がりも下がりもし、リスクがある。その詳細の説明は保険会社にしてもらう。」と説明したところ、小川タミは右保険加入に積極的で、同原告も生命保険会社の説明を聞きたいと申し出た。そこで政金は、遠藤を紹介し、遠藤は、同原告に変額保険の説明をした。
同年一〇月二三日、同原告の依頼で遠藤が同原告方に再度訪問することとなり、政金は遠藤に求められてこれに同行した。その際の遠藤の変額保険の説明内容は、運用には保険料の七〇パーセントを充て、株式を中心として公社債等で行うが固めのものを選ぶというものであったが、同原告は、「第一生命のようになぜ運用益を高めにしないのか。」と質問し、遠藤は、「運用益は高くはないが固いもので運用します。」と答えていた。
同年一一月七日、原告信男は、原告栁下、原告定子とともに保険加入のための健康審査を受けたが、原告信男は健康審査に合格したので、同月一六日、政金と岡部は、融資手続をするために原告信男方を訪ね、融資に必要な書類をもらい、同月二四日、融資を実行した。
(2) 被告明治生命及び被告代理社
遠藤は、岡部ないし政金から原告信男の紹介を受けたが、その際、同原告には変額保険についてある程度の説明をしておいたと言われた。
遠藤は、平成元年一一月二日午後二時ころ、岡部とともに原告信男方を訪問し、その際、同原告の妻と長男夫婦も居合わせた。右訪問は、約一時間であったが、うち約三〇分は変額保険の説明に費やし、遠藤はそのうち七〇パーセント発言した。説明の内容は、「変額保険は保険料を特別勘定で運用するものでインフレに対応でき、時代に即応したものである。右肩上がりの経済状態が続けば、九パーセントは維持できるが、波があるので運用の悪い時期に解約すると損をする、いわゆるハイリスク・ハイリターンの保険である。運用が悪くても死亡時保険金は基本保険金額が保証されている。」と言うものであった。
遠藤は、主として変額保険のパンフレットの内容、特に、「変額保険とは」「特別勘定とは」の部分を示して説明し、また、「生涯の備え……」の部分も、相続対策に関連して説明し、さらに、パンフレットの説明と同時に変額保険の設計書も示し、その主要部分については全部を指してわかりやすく説明した。シミュレーションについては、同じものが被告横浜銀行を通じて既に同原告に渡されていたが、改めてその内容を示しながら、特に「土地」(の評価)「課税価格」「相続税」「課税対象保険金」「借入金残高」「プラス効果」に力を入れて説明した。
ハイリスク・ハイリターンは、「損・得」という表現でパンフレットの図表をもとに、「この保険は、有価証券の運用によるので、いい時も悪い時もあり、運用実績が下がると保険金や解約返戻金にひびいてきます。」と説明し、ハイリスク・ハイリターンになる理由は、特別勘定の運用実績によるものであると説明した。この際、遠藤は途中で解約すると損をすることがあると説明したものの、同原告には相続対策として説明したため、双方とも解約は念頭になかった。
右説明に対して同原告は、株式の売買をして、当時も保有しており、株式には関心を持っていると話し、株価の見通しや株式運用について質問し、さらに、パンフレットや設計書の運用実績例表や従前の運用実績、将来の見通しについても質問した。
同月七日、遠藤が医師を同行し同原告の健康審査が行われ、同原告は、同日、変額保険契約加入申込書に署名捺印して遠藤に渡し、遠藤は、同月二八日、保険料の領収書を同原告方に届けた。
(三) 原告栁下
(1) 被告横浜銀行及び被告横浜信用保証
加藤は、平成元年九月ころ、預金等の勧誘のため原告栁下方を訪問したところ、同原告は、本人名義で宅地、駐車場、農地を含め多数の土地を所有しており、当時三ないし四億の相続税がかかるのではないかと心配していて、加藤に対し、相続税対策としてアパート建設を考えていたが、周辺のアパートで空き家も出ているので、他の方法で相続対策をとりたいと話した。そこで、加藤は、同年一〇月、同原告宅を訪ね、相続対策として即効性のある変額保険料ローンの話と変額保険についての話をしたところ、同原告は強い関心を示し、詳しい話を生命保険会社から直接聞きたいと言い出した。
加藤の報告を受けた政金は、変額保険の加入希望者が七〇歳以上の年齢の場合、被告明治生命しか受け付けていないので遠藤に連絡し、これを受けた遠藤は、同月二三日、変額保険の説明のために同原告方を訪問したが、その際、遠藤から求められて加藤もこれに同行し同原告方を案内した。
その後の同月二六日、同原告は政金に対し、「自分の長男の栁下達蔵にも生命保険会社の変額保険についての説明を聞かせたい。達蔵は大蔵省印刷局静岡工場に勤務しているので土、日にお願いしたい。」と希望したうえ、その際の加藤の同行を強く求めたので、同月二八日、加藤同行のうえ、遠藤が栁下達蔵に変額保険の説明をすることとなった。ところが、同月二八日、遠藤は息子の病気のため同原告方を訪問できなくなり、止むを得ず加藤だけが訪問して、原告栁下夫妻及び息子の達蔵と面接し、遠藤が以前同原告にした変額保険の概要の説明を前提に、「変額保険はハイリスク・ハイリターンではあるが、運用が悪くても、死亡保険金三億円は保証されている。保険料は現状九パーセントで運用されているようだが、変額保険なので、運用利率は上がりもし、下がりもする。」と説明した。
同年一一月一日、遠藤から同原告に対し、健康審査が同月七日であることが通知され、その後、被告横浜銀行は、遠藤から、同原告が健康審査に合格したので融資手続を進めてほしいとの連絡を受け、そこで、被告横浜銀行行員の渡辺明子が融資手続のため同原告方を訪問して保険料の融資に必要な担保物件や必要書類の説明をし、その説明に基づき、同原告から担保物件の提供と必要書類の提出を受け、同月二四日、同原告に対し手形貸付の方法で融資を実行した。
(2) 被告明治生命及び被告代理社
遠藤は、加藤から原告栁下の紹介を受け、変額保険について関心を持っているから説明をして欲しいと依頼されたが、加藤からは、既に同原告に対して変額保険の内容を説明しており同原告は理解している旨説明を受けた。
遠藤は、平成元年一〇月二九日又は同月三〇日及び同月三一日の二回に渡り、加藤とともに同原告方を訪問し、栁下夫妻に対し変額保険の説明をした。右訪問は約一時間であり、変額保険の説明は三〇分程度で、遠藤は、主として変額保険のパンフレット及びシミュレーションを用い、「変額保険の特徴は株式に投資して運用することで、一般の保険とは違う特別な運用である。運用によってはプラス・マイナスがあり、保険金や解約返戻金が変動し、運用の悪いときに解約すると損をする。しかし運用が悪いときでも基本保険金は保証されている。」と説明したが、具体的には、遠藤は、パンフレットを示しながら、特に「生涯の備え……」の部分を相続問題を含めて力を入れて説明し、「変額保険とは」「特別勘定とは」「ご契約例 変額保険のしくみ」「特別勘定の資産の運用実績例表」の部分も指し示して説明し、変額保険金についても、パンフレットの図表を示しながら、マイナスになることも含めて説明したうえ、パンフレットを同原告に渡し、さらに、変額保険の設計書も、主要な項目をほとんど全部指し示しながら説明したうえ、同原告に渡し、また、シミュレーションについては、被告横浜銀行を通じて同じものが同原告に渡されていたが、改めて内容をよく説明して同原告に渡し、特に五年目、一〇年目にどうなるかを「土地」(の評価)「課税価格」「相続税」「課税対象保険金」「借入金残高」「プラス効果」の欄で説明したうえ、シミュレーションは九パーセントを想定して作成してあるが、この数値は固定したものではないこと、九パーセントを想定すれば、加入した場合、相続対策でプラス効果があることを説明した。加えて、遠藤は、同原告に対し、変額保険のハイリスク・ハイリターンの性質を「損・得」の表現で説明し、「損・得」が生じる理由は、特別勘定の運用実績如何によるものであると説明した。なお、同原告には既に加藤からの説明で知っている部分があり、その点については確認する程度に止めたが、その際、加藤も銀行関係の書類によって説明した。
同原告は、遠藤のこれら説明に対し相槌をうち、運用実績表、従前の運用実績について質問し、さらに、相続問題や不動産の評価についても質問し、変額保険への関心の高さを示した。
そこで、遠藤は、同原告に、変額保険契約加入申込書を渡し、健康審査の日程を打合せた。右申込書は、同日付で作成され、遠藤は申込書を受領するのと引換えに「ご契約のしおり 定款・約款」を渡した。そして、遠藤は、翌一一月七日、医師を同行して同原告の健康審査を実施し、さらに、同月一五日、被告横浜銀行の担当者とともに同原告方を訪れ、同月二八日には保険料支払の領収書を届けた。
(四) 原告中島ら
(1) 被告横浜銀行及び被告横浜信用保証
被告横浜銀行は、平成元年九月ころ、原告サイの建物の底地の買取資金を融資し、富井は、そのころ、原告中島らから相続について相談を受けた。そこで富井は、原告サイ方訪問時に同原告に対し、相続対策として変額保険を紹介し、「これを利用すれば、土地を売らないで納税資金を作ることができる。運用益は変動するのでリスクもある。現在は七パーセント位で運用されているようだが、保険の説明は銀行員はできないので、生命保険会社の担当者に説明に伺わせましょう。」と説明したところ、原告中島らが生命保険会社の説明を希望したので、富井は、遠藤に変額保険の説明を希望している人がいる旨を連絡した。
富井は、遠藤を案内して原告サイ宅に行き、遠藤は変額保険の説明をした。遠藤はその際、保険に加入するためには健康審査に合格しなければならないと告げ、原告サイは、長男である原告と相談して決めたいといった。この他、富井が前記底地買い取りの件で原告サイ宅を訪問した際、たまたま原告が在宅しており、同人から変額保険について説明を求められ、同保険を紹介したことがある。
同年一〇月二二日付の人事異動で転出した富井の後任者である松岡は、同月二四日、遠藤から、原告サイが健康審査に合格したとの連絡を受け、そのすぐ後に、今度は原告から、保険の概要は前任者の富井から話を聞いているが、もう一度保険会社から説明を受けたいとの申し出を受けた。そこで、同月三〇日午前、被告横浜銀行小田原支店において、原告が遠藤から直接説明を聞く段取りとなったが、原告がなかなか来店しなかったため、説明すべく待機していた遠藤は、後で原告が来たら同原告に保険加入申込書に押印してもらうことを政金に頼んで帰ってしまい、右説明は実現しなかったが、政金は、遅れて来た原告に右の事情を話して、右書類に押印してもらった。
松岡は、同年一一月二四日、手形貸付でつなぎ融資をするため、原告サイ方を訪問し、原告同席のもと、原告サイに融資書類に署名捺印してもらって融資を実行し、そして、その後の同年一二月一日、原告中島らが前記小田原支店を訪れ、大型カードローンへの切替手続をした。担保は原告サイの自宅と貸家及び駐車場を予定していたが、自宅は老朽化しており新築の予定が有るということで、富水の土地を追加担保とすることが合意された。
(2) 被告明治生命及び被告代理社
遠藤は、平成元年一〇月中旬ころ、富井から原告サイの紹介を受けたが、変額保険加入の件は、同原告の長男の原告が主として交渉等に当たっていたので、原告サイにはその健康審査以外には接触していない。原告サイには、日程等の都合で、保険の説明前にとりあえず健康審査を受けてもらうこととし、これは平成元年一〇月二四日に実施され、被告代理社の貫井庄治が立会った。
遠藤は、原告に変額保険の説明をすべく、段取りをとったが、同原告の都合で実行できなかったので、やむをえず同月三一日、株式会社テレビ神奈川に原告を訪ね、変額保険の性質を説明した。この日の説明は、食事を取りながら一時間以上に及び、そのうち七〇パーセントは遠藤の発言であった。遠藤は、原告に対し、変額保険のパンフレット、設計書、シミュレーションにより原告栁下に対して行ったのと同内容の説明をしたうえで右各書類を渡したが、右遠藤の説明には、変額保険のハイリスク・ハイリターンの性質、「損・得」が生じる理由が有価証券の運用実績如何によること、途中解約の場合には元金(保険料金額)の保証はできないこと等、特別勘定の意味、運用の対象、従前の運用実績、死亡の場合の基本保険金の保証、解約返戻金、相続との関係など、変額保険に関する主要な問題が全て含まれていた。
なお、原告中島らは、遠藤が変額保険について原告に説明したのは契約成立後である旨主張するが、生命保険も契約である以上、申込と承諾によって成立するのが原則であって、生命保険には、契約の成立日の他に、責任開始日及び契約日があり、こちらの方が重要であるところ、責任開始日とは、約款六条により、医師に対する告知と保険料受取のいずれか遅い方をいい、契約日とは、責任開始日の翌月一日で、保険年齢、保険料決定及び期間計算の基準となるものをいうが、責任開始日及び契約日のいずれも、保険会社が申込を承諾することが前提であって、原告サイの場合、申込、医師に対する告知の後の平成元年一一月二四日に保険料支払がされているから、同年一〇月三一日に契約が成立したわけではない。
3 本件変額保険契約締結後の事情(被告明治生命及び被告代理社)
本件各変額保険契約締結後、被告明治生命は、契約者である原告定子、同信男、同栁下、同サイに対し、保険種類の欄に「変額保険終身型」との記載があり、運用実績が4.5パーセントの場合の解約返戻金表等が記載されている生命保険証券を、原告らが締結した変額保険の内容について受けた説明と相違があれば、その旨記載して返信するような書面を同封してそれぞれ郵送しており、また、契約後毎年、「変額保険」との記載が何箇所もある、個人変額保険特別勘定の決算の内容が文章と表で記載されている「決算のお知らせ」と各原告の契約内容、変動保険金、解約返戻金等に加えて変額保険のしくみが図を用いて記載されている「ご契約内容のお知らせ」を郵送している。しかるに、右各原告及びその関係者は、右のような記載のある各書類を受領しながら、契約締結後速やかに契約内容の相違を同被告に申し出ていないが、右のことからも右原告らは本件変額保険契約の内容を理解していたことが推測される。
第三 当裁判所の判断
一 変額保険の性質及び募集上の規制等
1 変額保険の特性等
証拠(甲一ないし三、八二、八三、乙一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
変額保険は、昭和六一年七月に認可され、同年一〇月から発売が開始されたものであり、保険会社が保険契約者から払い込まれる保険料中、一般勘定に繰り入れる部分を除いた積立金を特別勘定として独立に管理し、主に株式や債券などの有価証券に投資し、その運用成果に応じて保険金額及び解約返戻金が変動する仕組みの生命保険である。従来の定額保険においては安全性重視の運用を行い、一定額の保険金額、解約返戻金額が保証されており、資産運用の変動によるリスクを保険会社が負っているのに対し、変額保険は特別勘定資産の運用実績により高い収益が期待できる反面、株価や為替などの変動によるリスクを加入者が負うことが特徴である(変額保険の特別勘定資産の運用対象は、一般勘定と同一であるが、財産利用割合は一般勘定と異なる。また、定額保険においては、資産運用によって生じた有価証券等の含み益・売却益は、原則として契約者配当の対象とならず、保険者の下に留保されるが、変額保険においては、特別勘定資産は、原則として時価評価されて保険給付額に反映される。)。
終身型変額保険であれば、予定利率(定額保険より低く4.5%である。)を超える運用実績の場合は、死亡・高度障害保険金額は基本保険金額(死亡・高度障害時の最低保証額)を上回るが、予定利率以下の運用実績の場合には、死亡・高度障害保険金額は基本保険金額となる。終身型変額保険であっても解約した場合の返戻金は、最低保証がない。
右認定した変額保険の特性によれば、変額保険は、経済情勢や金融情勢によって高い利益が期待できる反面、保険契約者が変動の危険を負うことになるという、従来にないハイリスク・ハイリターンの特質を有するものであり、就中、死亡保険金額・解約返戻金の変動は、主として投資した株式等の価格変動により生じるものであるから、変額保険の内包する危険性は、基本的には、株式取引等と類似するところがあるということができるが、保険会社が特別勘定の資産運用として株式取引等を直接的かつ専門的になすことから、保険契約者にとっては自ら直接株式取引をする場合に比し、右危険の認識が間接的なものとならざるを得ず、したがって、右特性について十分な理解を欠くと、保険契約者が従来型の定額保険は安全であると理解していることとあいまって、右危険を十分に認識することなく変額保険に加入するおそれがあるものといわざるを得ない。
2 変額保険の募集上の規制等
募取法は、その三条以下で、生命保険の募集について生命保険募集人の登録制度を設け、種々の規制をしているところ、変額保険を我が国に導入するに当たり、募取法の改正は行われなかったものの、変額保険が前記のような従来の保険にない特質を有し従来の定額保険以上に慎重な募集対応が必要なところから、大蔵省は、昭和六一年七月一〇日付け通達(蔵銀第一九三三号)による行政指導を行い、その中で、①将来の運用実績についての断定的判断の提供、②特別勘定の運用実績について、募集人が恣意的に過去の特定期間を取り上げ、それによって将来を予測する行為、③保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは返戻金額を保証する行為を特に禁止事項として掲げた(公知の事実)。
3 生命保険協会(「生保協会」という。)は、契約者に変額保険の性格を十分に理解させるために特別の配慮をする必要性を認め、生保業界の自主規制として次のような措置をとった。第一に、変額保険の募集にあたる生命保険募集人自身が、変額保険につき十分な知識を持つ必要があるので、生保協会が、既に生命保険募集人として登録されている者に対し、変額保険資格試験を実施して、その合格者として生保協会に登録された者だけが変額保険の販売資格を取得する制度を導入した。第二に、変額保険の募集行為自体に関しては、変額保険の仕組み、資産運用の方針等を募集にあたって顧客に開示することの重要性を考慮し、募集の際、①保険金額の増減と基本保険金額(最低死亡保証額)の関係、②資産運用方針、投資対象、③特別勘定資産の評価方法、④特別勘定資産の運用実績が、〇%、4.5%、九%の場合についての保険金額の試算例、⑤解約返戻金額及び満期保険金額は最低保証がないことの五項目につき、必ず顧客の確認を求めることとした。
また、生保協会は、自主的運営ルールとして、「募集文書図画作成基準」を設け、募集の際に使用する資料(募集文書図面)については、あらかじめ生保協会への登録の手続を経ることを必要として、登録を受けていない私製資料の使用を禁止し、特に、右特別勘定の運用実績を示す資料については、その試算例を〇%、4.5%、九%の三通りの場合に限ることとした(公知の事実)。
二 原告らの本件各契約締結に至る経緯
1 原告三浦ら
証拠(甲七の二、二二、三七、四二、乙一、三、九、丙一三、証人遠藤、同岡部、同政金、原告定子)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告定子は、戦前から被告横浜銀行小田原支店に預金口座を有し、昭和五四年には、原告一男が原告定子の亡夫から相続した土地上にレストランを建築して賃貸し、その賃貸料を管理するため原告丹花商事を設立した。被告横浜銀行小田原支店は、右レストランの建築資金を融資し、原告丹花商事の口座に振り込まれた賃貸料から毎月一定額の返済を受け、平成元年ころ完済となった。本件変額保険契約締結当時、原告丹花商事の口座に振り込まれる賃貸料は、月額一三五万円くらいであった。
岡部は、原告定子が右レストラン用地に外食産業「スエヒロ5」を誘致する手助けをし、同原告は岡部の口利きで被告横浜銀行から融資を受けた。本件変額保険契約締結当時、岡部は、同原告方の定例集金担当者であり、政金及び遠藤は、同原告と面識はなかった。
なお、原告定子は、株取引等の投機的取引の経験はない。
(二) 岡部は、平成元年一〇月ころ、原告定子方を訪れ、相続対策に有効な新商品として変額保険を紹介した。岡部は、「保険料は銀行が融資する。融資は枠を設定し、利息はその中で支払うのでお金の持ち出しはない。」と説明した。これに対し同原告は、昭和五二年に夫の死亡による相続が発生した際、自宅敷地と湯川商事に賃貸している土地を除いた相続財産の大部分(土地約三九〇〇坪)を、三名の子供らの名義とし、自分が死亡した時に相続対策となる財産が少なくなるようにしていたので、相続対策をするほどの資産はないとして保険加入を断った。
しかし、岡部は、上司の政金に、同原告は不動産を多く所有する資産家で預貯金額も多く、変額保険加入のための保険料を融資する見込先として有望であると報告した。岡部は、政金を原告三浦らの所有土地付近に車で案内し、すべて三浦の土地であると説明したが、その中には、原告定子名義の土地のみではなく、その子供ら名義の土地も含まれていた。
その後、岡部に加えて政金も同原告方を訪問し、本件変額保険の締結に至るまで、四、五回に渡り同原告に変額保険の加入を勧めた。その中で政金は、同原告に対し、現金支払いの負担なしに、土地を抵当に入れて借金をして保険料を支払って保険に加入し、相続発生時に借金が残っていれば、相続税が安くなり、返済は借入利息も含めて保険金でカバーできる、変額保険はどんなに長生きしても絶対に大丈夫だから損をすることはないなどと力説して執拗に勧誘し、それでも同原告が断ると、政金は、変額保険は相続税対策のみでなく事業資金準備にも有効であるとして、なおも変額保険加入を勧めた。このようなところから同原告は、変額保険に加入することを決意した。
(三)(1) 遠藤は、政金から変額保険の加入見込者として原告定子及び原告信男を同時に紹介され、平成元年一一月初めころ、岡部とともに原告定子方を訪れ、変額保険の内容の説明をした。
遠藤は、説明に当たり、同原告に対し、本件変額保険のパンフレットとシミュレーションを交付したが、設計書及び「ご契約のしおり 定款・約款」は交付しなかった。
なお、右シミュレーションは、被告横浜銀行の担当者が、遠藤ないし被告代理社横浜営業部の貫井課長に加入見込者を紹介する際、顧客の資産、家族構成、契約者の生年月日、銀行の融資金利、基本保険金額等の情報を伝え、遠藤が右情報を被告代理社に伝えて、被告代理社本社において作成されたもので、作成されたシミュレーションは、被告代理社から遠藤にFAXで送信され、これを遠藤が被告横浜銀行の担当者に渡すか、直接被告横浜銀行にFAX送信して、その一部は被告横浜銀行を通じて予め原告らに手渡される扱いであった。遠藤は自ら変額保険を説明する際には再度これを交付していた(原告定子については、右シミュレーションが予め交付されていたか否かは不明である。)。
(2) 遠藤は、右保険内容の説明に当たっては、変額保険に加入して相続が発生した場合の節税効果の説明に力点を置き、変額保険と一般の保険との違いについては五、六分程度の説明で切り上げた。
遠藤は、変額保険と一般の保険との違いの説明については、パンフレット内側「ご契約例」のところに記載されたグラフ(基本保険金額を横線に図示して、これを軸に変額保険金額が横線の上方及び下方に波を打つように図示されたもの)を示しながら、保険料は特別な運用をするもので、その運用対象は株式等の有価証券を含み、運用は変化すること、特別勘定の運用により配当は増減し、上積みになる部分もあれば、マイナスになる部分もあり、これが変動保険金部分であること、運用がマイナスになっている時に解約すると損をするが、死亡した場合の基本保険金三億円の支払は保証されていること程度のことを説明したが、本件変額保険は相続対策のための終身保険で、中途解約は遠藤も原告定子も念頭に置いてなかった。
また、遠藤は、同パンフレットの運用実績例表(特別勘定の資産が九%、4.5%、〇%で運用された場合、経過年数に従って、死亡・高度障害保険金、解約返戻金がどう変遷するかを記載した表)が記載された部分については触れず、運用実績についてはシミュレーションを用いて説明し、そこに記載された運用実績の九%という利率は想定数字で、現在の運用利率は十数パーセントであり、ただ大蔵省の指導で九%と表示しているものであると説明した。
遠藤は、変額保険加入による節税効果を説明する際は、シミュレーションの下方記載のプラス効果欄を特に強調した。プラス効果欄は、対策実施前(変額保険加入前)の納税金不足額(相続税に金融資産を充当した後の不足額)と、対策実施後の余剰金(金融資産と受取生命保険金を合計し、ここから借入金を返済し、相続税を納税した後の余剰金)をいずれも対策実施後のプラス効果と考えて合算した合計額が記載されているものである。
他方、遠藤は、保険料を銀行からの借入金で払い込むことによる危険性(運用が失敗した場合、変額保険の波を打つ谷ができるが、払込保険料に充てた銀行借入金は変額保険の運用いかんにかかわらず利息とともに増え続けるので、特別勘定の運用成績が予定利率を下回ったまま一定年月を経ると、借入元利金総額が死亡時最低保証金の基本保険金額を上回って増加し続けるというリスクがあり、保険加入者が銀行借入金の増加を防ぐため、本件変額保険契約を中途解約して借入金の返済原資に充てようとしても、変額保険は途中解約してしまうと基本保険金(死亡時保証金)が受け取れず、解約返戻金は元本保証がないので、減少した運用保険料が解約返戻金となり、銀行借入元利金の返済資金が不足し、保険加入者には銀行借入金だけが残るリスクがあること)については説明することがなかった。
そして、同原告は、これら遠藤の説明に対して何も質問しなかった。
(3) なお、遠藤が原告定子に渡した書面には、以下の記載があった。
まず、シミュレーションには、変額保険加入後の生命保険金額と銀行からの借入金残高が年を追って増加し続けていく経緯の記載があり、銀行からの借入金残高は、経過年数一〇年目に基本保険金額を超過するが、保険加入後二〇年に至るまで生命保険金額は全てが銀行借入金額を上回るように記載され、また、プラス効果欄は全てプラスになっているが、その数値は年の経過により漸次減少している。また、相続の対象となる財産の「土地」の欄には、原告定子名義の土地の評価額を超える額が記載されていた。
また、パンフレットには、変額保険の意味、特別勘定の意味が記載され、特別勘定の意味の下に※に続けて「ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」と、運用実績例表の上に、「この例表の数値は、例示の運用実績が保険期間中一定でそのまま推移したものと仮定して計算したものであり確定数値ではありません。実際のお受取額は、運用実績及び配当実績により変動(増減)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」と、同表の下に(注3)「例示の運用実績(九%、4.5%、〇%)は、特別勘定にかかわるものであり、保険料全体に対するものではありません。」と、各記載されている。
(四) 同年一一月七日、原告定子は、遠藤が同行した医師により健康審査を受けたが、その際には、政金の指示により岡部も同行した。そして同原告は、同日、本件変額保険契約加入申込書に署名押印した。
(五) 政金は、遠藤から原告定子が健康審査に合格したので融資手続を進めて欲しいとの連絡を受け、同月一五、六日ころ、同原告方に融資手続の説明に赴き、同原告の所有土地だけでは融資金の担保には足りないので、原告一男名義の土地及び原告丹花商事の建物をも担保として融資を実行したいと申し入れ、これを受けた原告定子が、原告一男に担保提供を頼んだところ、同原告は、原告定子が変額保険に加入することに反対したが、岡部と政金の原告一男に対する変額保険加入による損は絶対ないとの説明、説得を受けてこれに賛成し、右担保提供することを承諾した。そこで、政金と岡部は、同月二一日ころ、再度原告定子方を訪れ、原告三浦らから融資のために必要な書類を受け取った。
2 原告小川ら
証拠(甲三二、三八、五五ないし五九、乙八、丙一三、証人遠藤、同岡部、同政金、原告信男)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告信男は、昭和四二年ころから被告横浜銀行小田原支店に預金口座を有し、昭和五四年には、同支店の勧めで、同原告の所有土地の一部に建物を建築して賃貸し、その賃貸料を管理するため原告丸信商事を設立して、不動産の賃料の振込等のため同支店を利用していた。本件変額保険契約締結当時の同原告の月商は一三〇万円くらいであった。
岡部は、原告信男の息子である暉隆と小学校、中学校時代の同級生で、原告小川らとはそのころからの付き合いであり、本件変額保険契約締結当時は、定例集金や定期預金の書換等で原告信男を担当していた。原告信男は、遠藤とは本件以前には面識はなかった。
なお、同原告は、昭和四〇年ころ現物株の取引を二、三回したことがあるのみで、平成元年ころは、株式等の取引は行っていなかった。
(二) 平成元年一〇月六日、岡部が原告信男方を訪れ、同原告に相続税対策をしているかと尋ね、近所の浅見宅では相続税が一六億円にもなったと告げて、相続税対策に有効な新商品として変額保険を紹介した。同原告は右相続税額を聞いて、相続税対策を取らなければならないと思うようになった。
その後の同月九日、岡部は、政金とともに同原告方を訪れ、政金を相続税対策の担当者として紹介した。政金は原告小川らに対し、変額保険を紹介した雑誌の記事と、保険料の運用率が九パーセントで、一般事例としての数値が記載されているシミュレーションを示し、遊休地に銀行借入でマンションを建築する相続税対策(「アパートローン」という。)に比べ変額保険による相続税対策は「即効性」(アパートローンは、三年間は相続の際に控除ができないが、生命保険は、即時に生命保険金を払ってもらえて、三年間のデメリットをカバーできる。)があり、保険料は、不動産担保を設定するカードローンで対応し、利息もカードローンの枠内で融資するため現金の持ち出しはない、シミュレーションの保険料の運用利率は最低の九パーセントで試算しているが、これ以下に下がることは絶対にない旨告げて変額保険の加入を勧誘し、岡部は、同月一七日、二〇日にも原告信男方を訪れて、本件変額保険加入を勧めた。
さらに岡部と政金は、同月二三日、再び同原告宅を訪問し、政金において、同原告と小川タミに対し、雑誌「マネージャパン」と、同原告の資産、家族構成等の具体的数値を記入して試算したシミュレーション様のものを示し、具体的数値を挙げたうえ相続税の額が大変高額になるなどと言って変額保険への加入を強く勧め、そのうえ、銀行借入金による変額保険は、保険料の運用利回りが九パーセント、銀行の融資利率が6.5パーセントで、差額が儲かるから人気があり、募集を間もなく締め切る予定で、取扱には枠があると告げて加入を急がせた。
同原告は右説明を受け、長男夫婦に相談して、このころ本件変額保険に加入することを決意した。
(三) 遠藤は、政金から、変額保険の加入見込者として原告信男の紹介を受け、平成元年一一月九日、政金とともに同原告宅を訪問し、同原告及び小川タミに対し変額保険の説明をした。
遠藤は、同原告に対し、パンフレットとシミュレーションを交付したが、設計書及び「契約のしおり.定款約款」は交付しなかった。
遠藤は、相続の際の節税効果の説明を中心にし、変額保険と一般の保険との違いについての説明は五、六分程度で切り上げ、その説明内容は、言い回しは多少異なるものの原告定子と同様であった。右説明を受けた原告信男は、遠藤に対し、変額保険の特別勘定の運用実績について、他社と比較してなぜ低いのかと質問し、遠藤が、明治生命は固い運用を行ってると答えた、ということはあったが、それ以上に変額保険の内容に質疑応答がなされることはなかった。
同原告用の右シミュレーションには、本件変額保険加入後の生命保険金額及び銀行からの借入金額が年を追って増加していく経緯の記載があり、右借入金は、経過年数五年目には、基本保険金額を超過するが、保険加入後一〇年に至るまで、生命保険金額が借入金額を上回るようになっており、一五年後、二〇年後の欄は、全て空欄になっている。また、プラス効果欄は全てプラスになっているが、その数値は年の経過により漸次減少している。パンフレットは、原告定子の場合と同じものである。
(なお、証人遠藤は、変額保険説明のため原告信男方及び原告定子方を訪問したのは平成元年一一月二日であり、同月九日の原告信男方訪問は、新築祝いの酒を持参しただけであると供述する。
しかしながら、原告信男が遠藤から説明時に交付されたとして提出しているシミュレーション(甲三二)は、同年一一月七日午前一〇時二三分にFAX送信された旨の表示があり、これと被告明治生命及び同代理社が提出しているシミュレーション(乙八)は内容が同一であって、前記認定のとおり、シミュレーションは、被告代理社から遠藤の事務所にFAX送信されるのが通常であることからすれば、遠藤が原告信男方に甲三二を持って変額保険の説明に赴いたのは、被告代理社から遠藤の事務所に甲三二がFAX送信された一一月七日以降であると推認できる。
もっともこの点、証人遠藤は、原告信男の年齢に誤りがあったため被告代理社において複数のシミュレーションが作成され、甲三二は、正確なシミュレーションを再度届けただけであるとも供述する。しかしながら、そもそも、証人遠藤が、原告信男方を訪問した日として一一月二日を特定した際には、被告代理人らが右日時を誘導しており、しかも、証人遠藤は一一月二日は岡部が原告信男宅を案内してくれたと供述するところ、証人岡部は、遠藤とは一一月七日の健康診断のときに会ったのが初めてであると証言し、かつ、原告信男の年齢に誤記のあるシミュレーションは証拠として提出されておらず、小川タミが平成元年当時記帳していた家計簿の一一月二日欄にも、原告小川らが遠藤の説明を受けた旨の記載はみられないうえ、証人遠藤は、一一月九日には、一一月七日に受信した正確な内容のシミュレーションを原告信男に届けることが出来るにもかかわらず、酒以外は持たずに、正確なシミュレーションを届けた日時も分からないと供述していて、その記憶はあいまいなものであり、にわかに採用できない。
一方、原告信男本人の遠藤訪問日についての供述は明確で、右日時に使用されたシミュレーションのFAX送信年月日とも符合し、証人政金も、健康診断の際(証拠上、一一月七日であることが明らかである。)原告信男に頼まれ遠藤に連絡を取り、同月九日に原告信男宅を遠藤とともに訪問したが、その際、遠藤がシミュレーションを使用して変額保険の説明をしているのを横で聞いていたと証言し、これは前記の小川タミの家計簿の該当日の記載とも合致していて、信頼性が高い。
したがって、仮に遠藤が一一月九日以前に数値に誤りのあるシミュレーションを原告信男に交付していたとしても、遠藤が同原告に対し、甲三二のシミュレーションを交付し、これに基づいて変額保険の説明をした日時は、一一月九日であると認められる。)
(四) 同年一一月七日、遠藤が連れてきた医師により健康審査が行われ、岡部も政金の指示によりこれに同行した。保険加入申込書は、暉隆の署名部分は同人が記載し、原告信男の署名部分は、小川タミが代署をした。
(五) 政金は、遠藤から原告信男が健康審査に合格したので融資手続を進めて欲しい旨の連絡を受け、同月一六日ころ、岡部とともに、同原告方に融資手続の確認に行き、担保不動産の登記簿謄本等をとって、被告横浜銀行本店の稟議を経たあと、同月二一日ころ、同原告方を訪れ、融資のための書類や権利証を受け取った。
(六) 本件変額保険の加入後、原告信男は、被告明治生命から保険証券の送付を受けたが、この保険証券の裏面の返戻金表に記載されている数値が、特別勘定の運用実績が4.5%で推移したものと仮定して計算してあり、勧誘時の説明よりも運用数値が低かったため、政金に問い合わせたところ、政金から連絡を受けた遠藤が、同原告に対し、「当社と契約された保険の運用数字が当時の話と違うということでご心配とのことですが、保険証券には最低数値が記載されています。これは、大蔵省の指導により、対郵政省等の関係で高い数値は記載されていませんのでご了承下さい。」等と記載した手紙及び一一月末時点の運用実績と称するコピーを同封した封書を送付した。
3 原告栁下
証拠(甲三三、三四、三九、乙一〇、証人遠藤、同政金、同加藤、原告栁下)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告栁下は、預貯金等の金融取引は、農協や郵便局で行っており、本件以前は、被告横浜銀行との取引はなく、株式等は保有していなかった。
(二) 加藤は、預金獲得のため平成元年八月ころから原告栁下方を訪れ出し、その後、原告栁下方を度々訪ねるうちに相続問題が話題となった際、同原告に対し、相続税対策として、アパートローンより即効性があって有利なものとして本件変額保険を勧め、一方、上司の政金に、同原告は変額保険の加入に伴う融資見込先として有望であると報告した。その後、加藤は、単独で、同原告宅を何回か訪問し、銀行借入による相続税対策としての変額保険の加入を勧め、さらに同年一〇月ころになると、政金とともに同原告方を訪れて、変額保険を勧誘するようになった。
(三) 加藤は、同年一〇月中旬ころ、相続財産概要を原告栁下方に持参し、これを用いて、銀行借入金で変額保険に加入して相続税対策をとることを勧め、その際、相続財産概要では九年後まで納税資金対策効果の部分がプラスになっていたことから、現在の時点と九年後の時点をとって納税資金対策効果の違いを説明した。
ところで、右相続財産概要は、加藤が、被告横浜銀行にある変額保険用のソフトを用いて、同原告から聞いた基礎データ(本人の氏名、年齢、性別、法定相続人の内訳、財産の概要)に基づき、概算の数字を入力して作成したものであり、その一枚目には、原告栁下の右データ及び対策項目として「一時払い終身保険加入」と記載され、二枚目には、対策前税額推移として二五年後までの相続財産の価値と納税額の推移が記載され、その末尾には、一〇年後に相続が発生し、納税不足分を土地売却で支払うと何坪の土地の売却が必要かが記載されており、三枚目には、対策後の税額推移と納税資金対策効果(シミュレーションのプラス効果欄と数値の算定方法が同じ。)が記載されている。これによると、生命保険金B(変額保険の受取保険金額)及び借入金は年を追うごとに増加する経緯が記載されており、借入金は五年後には基本保険金額を超過するが、現在から九年後までは、生命保険金Bは借入金を上回り、一〇年後には、生命保険金Bが借入金を下回るが納税資金対策効果としてはなおプラスがあることになるというものであった。もっとも、この際に入力された同原告の基礎データのうち年齢は八〇歳で実際の保険年齢である七九歳に比し概算値であるといえるが、土地の相続税評価額が三億円、建物の相続税評価額が五〇〇万円とされている部分は、平成五年三月に被告横浜銀行が同原告に示した相続財産概要の記載(変額保険加入時の土地の相続税評価額は五億六八五万一〇〇〇円、同じく建物が二八万五〇〇〇円)と比べ、全く異なっているものであった。
(四) ところが、原告栁下が息子の栁下達蔵にも相談するとして、変額保険の加入を決断しなかったため、政金は、右達蔵を説得して同原告に変額保険に加入してもらうようにしようと考え、達蔵の都合の良い日時を同原告から聞き出し、加藤に対して、本来は休日である土曜日(同年一〇月二八日)に、遠藤とともに同原告方へ赴き、達蔵に変額保険の説明をするよう指示した。
右当日、加藤は同原告宅を訪れたが、遠藤は、息子の病気(遠藤の息子は、平成元年一〇月一七日に急性脳炎で入院し、意識が戻ったのは三週間後くらいと重症で、退院したのは同年一二月二五日であった。)のため来れなかったので、加藤が単独で本件変額保険の説明をした。
加藤は、原告栁下らに対し、雑誌記事のコピーを示して、変額保険は関西方面で好評であると言い、前記相続財産概要を示しながら、原告栁下の資産評価額と相続税の概算を説明し、変額保険のシステムは、配当が九パーセント、銀行金利が6.5パーセントで推移するから成り立つのだと説明した。これに対し達蔵が、加藤に対し今後もずっとこの制度は有るのかと質問したところ、加藤は、今回で打ち切りだし、この機会を逃すと二度とチャンスはないと答えて、暗に変額保険への加入を急がせた。
その後、達蔵は、母親から、銀行員から締切りが迫っているがどうしますかと言ってきているとの連絡を受け、加入してもいいのではないかと返答し、そこで同原告は、本件変額保険に加入することとした。
(なお、証人加藤は、同月二八日に加藤が変額保険の説明をするのに先立ち、遠藤が同月二三日に原告栁下方を訪問しており、その際、遠藤が同原告に渡したパンフレット及びシミュレーションと、前記相続財産概要を用いて、遠藤が同月二三日にした説明内容をなぞるような説明をしたと供述する。
しかしながら、遠藤は、同月末から一一月初めころに原告栁下方を初めて訪問したと証言し、同原告の陳述書にも同様の記載が見られ、しかも、遠藤は、息子の急病のため一〇月一七日から病院で付き添っていて、後記のとおり、変額保険の資料を事務所に取りに行くことも出来ず、同年一〇月二四日の原告サイの健康診断も、被告代理社横浜営業部の課長に頼んで遠藤の代わりに立ち会ってもらっている状況であって、証人加藤が供述する同月二三日には、原告栁下方を訪問できるような状況ではなかったことが認められ、前記証人加藤の証言は採用できない。)
(五) 加藤は、同年一〇月ころ、遠藤に対し、変額保険の加入見込み者として原告栁下を紹介し、ファックスで加入内容を知らせた。
遠藤は、同年一〇月末から一一月初めころにかけて、加藤とともに、二回ほど同原告方を訪問し、同原告夫妻に対して、変額保険の説明をした。
遠藤は、変額保険のパンフレットとシミュレーションを交付したが(なお、後記のとおりシミュレーションは一一月二日以降に交付したものと認められる。)、設計書及び「契約のしおり.定款・約款」は交付しなかった。
遠藤は、相続の際の節税効果の説明に力点を置き、変額保険と一般の保険との違いは五、六分程度で切り上げ、そして右説明内容は、言い回しは多少異なるものの原告定子の場合と同様であった。
同原告に渡されたシミュレーションには、生命保険金額及び銀行からの借入金額が年を追って増加していく経緯の記載があり、右借入金は、経過年数五年後には基本保険金額を超過するが、保険加入後一〇年に至るまで生命保険金額が借入金額を上回るようになっており、一五年後、二〇年後の欄は全て空欄で、土地の評価、保険年齢、保険年齢に応じた払込保険料の記載部分は誤っていた(甲三四と乙一〇の対比)。また、プラス効果欄は全てプラスになっているが、その数値は年の経過により漸次減少している。パンフレットは、原告定子と同じものである。
そして、遠藤の右説明に対し同原告から保険内容についての質問はなされず、当時の土地問題や相続税のことなどが話題となったのみで、健康診断の打合せをして終わった。
(なお、証人遠藤は、原告栁下宅を訪問した日時について、当初は、一〇月末から一一月初めころとし、その後、一〇月三〇日に変額保険の資料を渡し、一〇月三〇日と翌三一日の二回、ほぼ同じ内容の変額保険の説明をした旨、そして、一〇月三〇日は、被告横浜銀行小田原支店で原告と会う約束をしていたが反故になったため、加藤とともに原告栁下宅を訪問し、翌一〇月三一日は、同原告方を訪問していたところ、政金から連絡が入り、同原告方訪問を早く切り上げて同日午後に原告と会った旨供述しており、原告と会った日時や二日連続して同原告と面会を約束した経緯は、後記原告の供述と合致し、また、証人遠藤は原告栁下の保険加入申込書は同人方を二回目に訪問した際に受け取ったと供述しているところ、保険加入申込書の申込み期日は一〇月三一日付けで、遠藤の右供述に副うものである(ただし、加入申込書の表上部、保険契約者通信先氏名の横に横書きで打たれた番号は、同月一一月七日に加入申込みをした原告定子、原告信男と連番になっている。)。
しかしながら、原告栁下が、遠藤から変額保険の説明を受ける際に交付されたとして提出しているシミュレーション(甲三四)には、FAX送信の日付けが八九年一一月一日一九時二三分であると表示されており、右シミュレーションは、右時点以降に、遠藤から原告栁下に交付されたものと推認できる。この点、証人遠藤は、被告横浜銀行から告げられた原告栁下本人の年齢等に誤りがあり、甲三四以前にも別のシミュレーションを渡しているはずだと供述する。しかし、甲三四の内容は、加藤が同年一〇月中旬に同原告に渡していた相続財産概要の数値(甲三三)とほぼ合致するもので、被告明治生命が提出するシミュレーションに比べると、土地の評価額が半値で、保険年齢が一歳若く、保険年齢に連動する保険料額も誤っており、甲三四は、被告横浜銀行から伝えられた情報のまま作成された最初のシミュレーションではないかと推認され、遠藤が、甲三四よりも前に誤記のあるシミュレーションを渡したとは思われず(仮に渡しているとすれば、二回も誤記のあるシミュレーションを渡したことになる。しかも、遠藤が一〇月三一日に受け取ったとする保険加入申込書には、正確な保険年齢が記載されているので、この点の訂正がないままシミュレーションを渡したことになる。)、一一月一日以前に送付されたシミュレーションは、証拠として提出されておらず、しかも、証人遠藤は、同原告から提出された甲三四及び正しいシミュレーションとして被告明治生命らが提出している乙一〇を、それぞれいつ原告栁下に交付したのか、また、原告栁下に交付した者が、遠藤か加藤かも全く覚えておらず、その供述はあいまいである。
したがって、遠藤が、シミュレーションを交付して、これに基づく説明をしたのは、甲三四のFAX送信日の翌日以降であると認められる。)
(六) 政金は、同年一一月半ばころ、遠藤から、原告栁下が健康審査に合格したので融資手続を進めて欲しいとの連絡を受けたが、たまたま担当の加藤が研修で出張中だったので、個人渉外係の渡辺明子とともに、同原告宅を訪問し、融資の手続きのための書類を整え手形貸付を実行した。その後、加藤は、右手形貸付をカードローンに切り換えたが、その際は同原告の自宅については保証書を用いて根抵当権設定登記手続をした。
4 原告中島ら
証拠(甲二三、二四、四〇、四一、乙一一、一五、丙一六、証人遠藤、同政金、同松岡、原告サイ、原告)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原作サイは、昭和五〇年ころから、被告横浜銀行小田原支店に普通預金口座を有し、賃貸不動産の収入管理も依頼しており、平成元年九月には、同支店から同原告名義の建物の底地買い取りのために融資を受けた。また、被告横浜銀行は、原告の勤務先であるTVKのメイン株主かつメインバンクであり、人事交流が盛んで、同原告自身も、業務上被告横浜銀行の上層部との接触が多かった。原告中島らは、本件以前は遠藤とは面識はなかった。
原告は、本件変額保険契約締結当時、第一生命保険の定額保険(二〇〇〇万円)に加入していたが、株式取引等の投機的取引の経験はない。
なお、本件当時、同原告宅に原告サイは同居していた。
(二) 原告は、昭和六三年ころから、被告横浜銀行小田原支店の行員富井正巳に対し、原告サイの遊休地上にマンションを建築して賃貸し、固定資産税対策と相続税対策をしたいと相談していた。これに対し、富井は、相続税対策として高齢者を対象にした生命保険があり、アパートローンよりも即効性がある、保険料は銀行からの融資で払い込むことができ、保険金三億円に対して配当金がついて、それは九パーセントを下回ることは絶対ないし、終身保険なので、保険料は死亡発生時に支払われる保険金の中から返済すればいいなどと説明し、変額保険を推奨し、さらに、平成元年九月下旬から一〇月上旬ころ、原告に対し、シミュレーションを渡し、その下方に記載されているプラス効果欄を示しながら、資産を担保に一時払いで運用すれば、一〇年経ってもこのとおりである、この商品は、配当が非常に良く他の商品に影響を来すため大蔵省は来年の三月をもってこの生命保険を打ち切りにするので、加入は急いだ方がいい旨告げて勧誘した。
(なお、証人松岡は、富井が原告サイから相続についての相談を受け変額保険の説明をしたら関心を示したので、遠藤を自宅に連れていったが、同原告は自分だけでは決められないので原告に話をして欲しい旨希望している旨富井から引き継ぎを受けたと供述するが、証人遠藤及び原告サイ本人は、いずれも右を否定する供述をしているうえ、後記のとおり、遠藤が原告サイの紹介を受けてから松岡が富井の後を引き継ぐまでの間は、遠藤の息子の病状が全く回復していない段階で、遠藤は、一〇月二四日の原告サイの健康診断にも同席できない状態であったもので、そのころに、富井が遠藤とともに原告サイ方を訪問することは考えられず、証人松岡の右供述は採用できない。)
(三) 富井は、原告に対し、原告サイが高齢であるため加入申込みよりも先に健康審査を行って、保険に加入できるかを確認することを提案し、健康診査を一〇月二四日に行うので、被告横浜銀行小田原支店まで来るように指示した。右当日は、原告サイ、原告、原告の妹敦子の三人で、被告横浜銀行小田原支店に赴き、そこから、原告サイ及び敦子は、富井の運転する車に乗って、被告代理社の小田原西営業所に移動し、被告代理社横浜営業部課長の立会いのもと、健康診断を受けた。
(四) 松岡は、原告サイの右健康診断終了後、富井から同原告の変額保険加入の件を引き継いだが、その後、一〇月三〇日に至るまで、原告に会うことはなかった。
政金は、同原告に対し、被告明治生命の担当者を紹介すると言い、平成元年一〇月三〇日午前九時三〇分ころ、被告横浜銀行小田原支店で待ち合わせることになり、当日、担当者の政金及び松岡、それに政金から連絡を受けた遠藤は、約束の時間に集まって右支店で同原告を待っていたが、予定時刻を過ぎても同原告が現れず、そこで遠藤は、同原告に渡す予定の保険加入申込書を政金に渡し、三か所の所定欄に、原告サイの押印をもらうよう原告に伝えて欲しいと頼んで去った。その後の同日昼過ぎ、原告は同支店を訪れたが、右のようなところから遠藤の説明を受けることはできなかった。
(五) ところで、遠藤は、同年一〇月中旬ころ、富井から被告代理社横浜営業部の貫井課長を通じて、原告中島らの紹介を受け、原告サイの年齢、生年月日、相続人の人数と年齢、住所、具体的な所有財産の内訳について連絡を受けていた。そして、前記のとおり一〇月三〇日に予定していた原告への変額保険についての説明ができなかったので、遠藤は、政金の指示で、同月三一日、横浜にあるTVKを訪れ、同原告に会った。
遠藤は、同原告に対し、変額保険加入の礼を言い、パンフレットとシミュレーションを渡したが、設計書、「契約のしおり.定款・約款」は交付しなかった。遠藤は、変額保険について、言い回しは異なるものの原告定子の場合と同様の説明をし、変額保険の説明に要した時間は、せいぜい五分から一〇分の間であった。
右シミュレーションは、生命保険金額及び銀行からの借入金額が年を追って増加していく経緯の記載があり、右借入金残高は経過年数七年後に三億円を超過するが、変額保険加入後一〇年間は、生命保険金の数値が借入金の数値を上回っており、一五年後、二〇年後の欄は全て空欄である。プラス効果の欄は全てプラスになっているが、その数値は年の経過により漸次減少している。そして、他の原告らの銀行借入金の金利は6.5%であるのに、六%となっている。パンフレットは、原告定子と同様のものである。
遠藤は、その後の同年一一月ころ、被告横浜銀行の従業員から原告サイの保険加入申込書を入手した。
(なお、証人遠藤は、右保険加入申込書の申込日欄は空欄であったが、遠藤において、原告サイが健康診断を受診した日である一〇月二四日を加入申込日として記入したと供述し、右書面の死亡保険金受取人カナガキ氏名は、「ナカジマサトシ」とすべきところ、「ナカジマリョウ」となっており、原告中島らが記載していないと疑われる部分があることが認められるが、申込日欄の数字の2の書き方は、遠藤が記載したものと認められる契約書表「月区分」の「申込みデータ番号」欄の数字の2及び契約書裏面のその他決定上の参考事項欄末尾の数字の2の書き方とは異なり、また、原告が記載したことが明らかな甲七七の「お申込人」欄の住所の数字の2及び「ご家族」欄の生年月日に記載されている数字の2の書き方とも異なっていて、日付欄を誰が記載したのかは不明である。)
(六) 松岡は、原告サイが健康審査に合格した後、原告と交渉して払込保険料の融資手続を進め、保険会社の健康審査の有効期限が一か月しかないので、手形貸付でなければ、時間的に間に合わないことから、同年一一月二四日に、手形貸付の手続をとった。この手形貸付は、その後カードローンに切り換えられたが、松岡は、カードローンについては、融資に金利がつくので、何年後かのカードローンの枠を設定して、その中でやっていくと説明した。
松岡は、富井からの引き継ぎの際、原告中島らに融資する際の担保は自宅と貸家が付いている駐車場であると知らされていたため、右不動産につき根抵当権設定契約を進めようとしたところ、原告から、自宅は、建物が老朽化していて建て替える予定であると聞き、同年一二月二八日に、貸家が付いている駐車場につき根抵当権設定契約をした。その後、松岡は、原告中島サイの所有する富水の駅前の農地を宅地に転用したうえで追加担保に取りたいと要求し、原告は、そんなに担保を要求するなら、本件変額保険を取りやめにしたいと断る等、担保設定で揉めたものの、結局、平成二年六月二一日、別紙物件目録四2記載の既存建物四棟を追加担保とし、根抵当権の極度額を二億七五〇〇万円とした。
(甲七七、保証委託申込書兼保証委託契約書のご予定の担保欄が空欄………担保が未だ決定していなかったことが窺える)
5 原告らには、本件変額保険契約締結後、保険証券(保険種類の欄に「変額保険終身型」との記載があり、特別勘定の運用実績が4.5%の場合の解約返戻金表等が記載されている)、告知書写し及び告知書写しと保険証券を確認し事実と相違するか漏れがある場合にそれらを記載して返送するための葉書様のものが送付されている。また、本件原告らには、契約後、被告明治生命の本社から「決算のお知らせ」(契約月別の運用実績の例等が記載されている。)や「ご契約内容のお知らせ」(この一年間の変動保険金等が記載されている。)が送付されている。
6 また、被告明治生命及び同代理社は、遠藤が、前記認定の資料のほか、設計書及び「ご契約のしおり.定款・約款」も原告らに交付して、原告らの面前にパンフレットと設計書を並べて示し、パンフレットの運用実績例表は指して説明し、設計書についても主要な項目は全て指して説明したと主張するので、この点につき検討する。
証人遠藤は、本訴において、原告らに渡した資料は、説明の際に使用した資料しか記憶がなく、右資料とは、パンフレットとシミュレーションだけであり、設計書は、シミュレーションと中身が同じで、また原告らの加入した変額保険の基本保険金額は三億円と最高限度額で、設計書の主契約基本保険金欄にコンピューターで表示できる上限額を超えていたため、仮定的に一億円ないし二億円を入力した設計書しか作成できず、原告らに渡す資料としては不相当であったので設計書は使用しなかったと供述しているにもかかわらず、その後の別件訴訟の証人尋問において、代理人から本件訴訟の陳述書(甲二二)を示され尋問されたのに対し、原告らに対しても設計書を用いて説明したと供述し、供述を翻している。
しかしながら、本訴における証人遠藤の供述は、普段は事務所において顧客ごとの関係資料一式を茶封筒に入れて管理しており、右資料とは、シミュレーション(被告代理社本社作成)、設計書(遠藤作成)、パンフレット、保険加入申込書、「ご契約のしおり 定款・約款」であるが、原告らに変額保険の説明をした当時は、子供の病気により、原告らに渡すべき資料はスタッフに頼んで事務所から持ってきてもらうこととなり、関係資料を遠藤が自分で集めて茶封筒に入れることが出来ず、このため原告らに渡した資料についての記憶があいまいとなったというもので、それ自体具体的である。しかも、証人遠藤は、遠藤の原告らに対する変額保険の説明は、言い回しが多少異なるもののいずれも同じ内容であると供述するところ、その筆跡、封書の様式及び日付印から、遠藤が被告代理社の担当者として、原告信男に対し平成元年一二月二七日ころ送付したことが明らかな手紙によれば、遠藤は、同原告が、保険証券の解約返戻金額の数値が特別勘定の運用数値4.5%を前提とするのは、契約時に説明を受けた運用数字と違うとして、政金に問い合わせたのに対して、4.5%という数値は、契約時に説明した数値とは違うと認めた上で、保険証券には最低数字が記載されている旨了承して欲しいなどと説明していることが認められ、このことからすれば、遠藤が、原告信男及び他の原告らに対し、本件変額保険加入申込み前に、特別勘定の運用実績が4.5%の場合について説明していたとは考えられず、まして〇%の場合について説明していたとは到底考えられない。したがって、遠藤が原告らに対し、特別勘定の運用実績が〇%や4.5%の場合の記載が主たる内容である設計書の交付及びこれに基づく説明をしたとは認められない。
また、原告ら本人の供述及び遠藤の供述によれば、原告らの変額保険申込書には、「契約のしおり 定款・約款」を保険契約者が受領した旨の受領印があるが、右押印欄は、原告らにその交付如何にかかわらず遠藤が指示して押印してもらったものにすぎないことが認められる。
三 被告らの提携関係について
1 証拠(甲五、六)及び弁論の全趣旨によると、被告明治生命では、顧客は、被告明治生命に一時払いで保険料を支払って、生命保険契約を締結し、一時払保険料、登録税及び利息については金融機関との間で所有土地を担保とする根抵当権設定契約を伴う金銭貸借契約を結んで、借入金により支払うこととし、相続発生時には、高額の保険金と清算金が用意できる仕組みであると図を用いて説明した「RITプランの仕組」と題する書面を営業員用教材として作成配付していることが認められ、これによると、被告明治生命では、金融機関と提携して、顧客に保険料支払原資を金融機関から借り入れてもらい、一時払いで高額の保険料を支払ってもらう方法での生命保険契約締結の獲得を営業政策として進めていたことが明らかである。
2 また、証拠(甲七の一ないし三、二二ないし三一、乙二二、証人遠藤)及び弁論の全趣旨によれば、原告らの変額保険契約についての被告横浜銀行と被告代理社との関係につき、次の事実が認められる。
(一) 原告らの保険料は、平成元年一一月二〇日ころ、被告横浜銀行小田原支店において、遠藤に対し、四名分同時に小切手で渡され、遠藤は、政金から、朋栄を通じて被告横浜銀行に紹介手数料を支払うように指示された。
遠藤が、原告らの本件変額保険契約の成約に当たり受領する手数料は、基本保険金額に0.8を乗じ、それに一万分の一五〇を乗じた額であり、原告らの場合は、一人当たり三六〇万円で、源泉徴収の結果、手取りは一人当たり三二四万円となる。
遠藤は、被告代理社横浜営業部の斉藤弘之部長(「斉藤部長」という。)の指示で、被告横浜銀行の被告代理社中田庸穂部長名義の口座に、対万四〇円の手数料(RITプランで三億円の基本保険金の変額保険を紹介された場合、計上成績は二億四〇〇〇万円で、これにつき一万円について四〇円の手数料を支払うもので、原告ら四名で、紹介料は合計三八四万円となる。)を平成元年一二月二五日に、これに対する消費税に相当する金員(一一万五二〇〇円)を同月二八日にそれぞれ振り込み、朋栄から同月二七日付けの領収書を受領した。朋栄宛てには中田部長名義で御紹介手数料・支払明細書が作成され、右明細書の平成元年一一月分の被保険者欄には、原告ら四名も記載され、右明細書の支払手数料欄の原告ら分の記載額は、遠藤が中田部長名義の口座に振り込んだ金額と一致していた。
以上は、担当者の振り込み先口座が異なっているほかは、遠藤が斉藤部長から渡された被告横浜銀行紹介契約手数料支払マニュアルに則っている。
(二) 被告横浜銀行営業推進本部長、支店第一、二、三部長らが連名で作成した平成三年九月付け「変額一時払終身保険の取引先紹介に係わる生保会社からのメリット吸収について」と題する書面には、「基本的には(株)朋栄への手数料収入を期す」として「(株)朋栄に当行取引先を紹介すると保険金額一億円につき三二万円の手数料が入る。」と記載され、朋栄の提携先として被告代理社を含めた六つの生命保険会社の名前が連ねられ、注書として「営業店へは手数料収入が全額収益還元される。」と記載されている。また、同被告個人金融部長が作成した平成元年一一月付け「(変額)一時払終身保険に対する需資案件の推進について」と題する書面には、「(株)朋栄の紹介手数料の算定等に活用したいので、同封の報告書を提出ねがいます。」と記載され、報告書様式が添付されている。
(三) 前記マニュアルの横浜営業部の項目には、「4.銀行への支払.代理社分を一括し、横浜銀行グループ損保・生保代理店(株)朋栄へ支払う。」として、朋栄名義の被告横浜銀行の口座が記載されており、また、前記被告横浜銀行営業推進部長ら作成の書面には、「(株)朋栄は現在六つの生保会社の紹介代理店(個人向け変額保険に関して)となっており」と記載されているが、前記認定(原告らの加入経緯)のように、朋栄は、本件変額保険の勧誘には全く関与していないものである。
(四) なお、遠藤は、被告横浜銀行小田原支店から原告ら四名を紹介された見返りとして、平成元年一二月中の一週間、被告横浜銀行に一億円の通知預金を実行した。これは、原告らの担当者である遠藤が、被告横浜銀行の紹介で変額保険契約を獲得すると、斉藤部長が被告代理社の大矢部長宛てに、被告代理社本社で被告横浜銀行小田原支店に特別通知預金一億円を一週間行うようFAXで依頼したもので、被告代理社内部の処理では、右金員は遠藤が被告代理社本社から借り入れることになるので、遠藤は通知預金の期間分の借入利息約一二万円も支払った。
以上の認定事実を総合すると、被告横浜銀行と被告代理社とは、変額保険加入者の紹介と変額保険契約の締結による収益の分配を通じて、互いにもちつもたれつの密接な提携関係にあったものということができる。
四 本件各契約の有効性等について
1 本件各変額保険契約の有効性について
(一) 前記二で認定したところによると、原告定子、原告信男、原告栁下、原告サイが保険料相当額を被告横浜銀行から借り入れ、これを原資として本件各変額保険契約の締結に踏み切ったのは、右原告らが、政金ら被告横浜銀行行員の説明したとおり、いずれも、保険料の運用益は九パーセントを下ることはなく、実際はそれよりも相当高く銀行金利を上回る運用益が見込まれるから、原告ら死亡時には、本件変額保険による死亡保険金でもって、被告横浜銀行からの借入金は原告ら死亡時までに発生する利息相当額を含めて完済できるし、納税資金の準備もできるのであって、被告横浜銀行に対する返済は全く心配がないと認識したためであるということができる。
(二) しかし、前述のとおり、変額保険は、保険料のうち特別勘定部分を独立して管理し、主に株式で運用し、その運用実績により将来の保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であり、特別勘定の運用実績により高い収益も期待できる反面、株価などの変動によるリスクも保険加入者が負うものである。したがって、基本保険金という最低保証が設けられているとはいえ、基本保険金は、変額保険の運用益が最低九パーセント保証されているので、借入金の元利合計を常に上回っており、銀行からの借入元利金を返済できないことはあり得ないなどということはないものであり、実際にも、本件各変額保険契約の解約返戻金が払込保険料すら下回る事態が生じているばかりでなく、原告らの被告横浜銀行に対する借入元利金は基本保険金を上回り、しかも、時を経るほどにその差は大きくなっていることが明らかで、原告らは、本件変額保険に加入したがため長生きすればするほど、現状では損失が大きくなるという深刻な状況に置かれている。
(三) また、遠藤は、政金ら被告横浜銀行小田原支店の行員が原告らに対して勧誘行為を行っていることを知悉し、政金らから勧誘の状況を聞き知っていたのはもちろん、政金らによる勧誘行為を前提としこれを利用して原告らに対する本件変額保険についての説明は極短時間のなおざりなもので済ませ、相続対策や変額保険加入によるメリットに力点を置いた説明をし、原告らの健康審査が通ると直ちに被告横浜銀行に対し保険料支払原資のための融資方を要請しているものであり、これらのことからすると、変額保険の運用益が最低九パーセントは保証されており、銀行からの借入元利金の返済ができなくなることはあり得ないと信じて原告らが本件各変額保険契約を締結したものであることを知っていたものというべきである。
そうすると、原告らは、いずれも、本件変額保険の運用益が最低九パーセント保証されており、被告横浜銀行からの借入金の返済ができなくなることはあり得ないと認識していなかったならば、本件変額保険契約を締結することはあり得なかったから、原告らの本件各変額保険契約の締結には要素の錯誤があったものといわざるを得ない。
(四) ところで、事案の性質にかんがみ、原告らの右錯誤について過失の有無及び程度について検討する。
原告らは、政金らの勧誘段階で、本件変額保険の基本保険金額を決定し、遠藤からは、本件変額保険の運用実績が思わしくない場合でも基本保険金額は最低限保証されているとの説明を受けているところ、政金ら及び遠藤が原告らの勧誘の際に使用した相続財産概要及びシミュレーションには、原告らの銀行借入金が、それぞれ変額保険加入後五年から一〇年の間に基本保険金を超過して増加し続ける旨の記載があること、原告信男を除く原告らは、保険証券の送付を受けながら、その内容について送付時に検討した形跡がなく、また、原告信男において、保険証券の記載に疑問を抱き、被告横浜銀行の行員に問い合わせたところ、前述のとり、連絡を受けた被告代理社の遠藤から、右記載は政策的な趣旨のものであるとの回答書類を得たことで、それ以上の質疑もしなかったものであり、遠藤から受け取ったパンフレットについては、原告ら全員がその受領を否定するか受領した記憶がないもので、これらを慎重に検討した形跡が見られないところ、パンフレットには、前記認定のとおり本件変額保険に加入すると投資リスクを負うことになることや、運用実績例表は将来の支払額を約束するものではないことが記載されていたこと等からすれば、相続税の支払いを免れてなお保険金が儲かるという保険だという政金らの説明に目が眩み、家族共々交付書面の検討不足であった等の落ち度があるといわざるを得ない。しかし、原告ら、特に原告栁下を除く原告らは、いずれも被告横浜銀行の以前からの顧客で、地元の一流銀行である同銀行とその行員に対し全幅の信頼を寄せていたのであり、政金らは、そのことを承知しながら、原告らに対し変額保険のリスク面について十分な説明をせず、相続税対策の利点やメリット面を強調し、さらに、相続税負担についての不安を煽り立て、自分らに対する右信頼を利用して執拗に勧誘し、本件各変額保険契約を締結させたものであるといわれてもやむを得ないものであって、このような事情に照らして考えると、原告らに前記落ち度があったことをもって、原告らに重大な過失があったということはできない。
したがって、本件各変額保険契約の締結は、要素の錯誤により無効であり、被告明治生命は、原告らからの払込保険料相当額について不当利得として返還する義務があることになる。
そうすると、被告明治生命は、不当利得返還債務として、原告定子に対し、払込保険料相当額の一億六一六七万六〇〇〇円、原告信男に対し、同じく二億二六七二万八〇〇〇円、原告栁下に対し、同じく二億三五〇六万二〇〇〇円、原告サイに対し、同じく一億九九七四万三〇〇〇円、それに、右不当利得返還債務は期限の定めのない債務であるというべきであるから、原告らが同被告に対し請求をしたことが記録上明白な本訴状送達の日である平成五年一一月二四日の翌日の同年一一月二五日から右各金員に対する各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。
2 被告横浜銀行との間のカードローン契約、被告横浜信用保証との間の保証委託契約及び根抵当権設定契約の有効性について
(一) 錯誤無効の主張について
既に認定したとおり、原告らは、政金らによる勧誘の結果、本件各変額保険契約を締結するとともに、保険料を一括して支払うために被告横浜銀行からこれを借り入れ、右借入金に対する金利についても新たな借入金によって支払うため、被告横浜銀行との間でカードローン契約を、被告横浜信用保証との間で右各債務の担保として保証委託契約及び根抵当権設定契約を各締結したものであるが、右各契約締結に当たり、実際には、変額保険の運用益については何の保証もなく、基本保険金の保証はあるものの、死亡保険金によって右元利金を弁済することができなくなる場合が生ずるにもかかわらず、運用益は最低九パーセントが保証されていて、右借入元利金を返済するに足りる死亡保険金を受けることができるものであると誤信していたものである。そして、右のような原告らの誤信は、政金らが、運用益は九パーセントを下ることはなく、借入元利金を返済できなくなることはあり得ないとの説明をして原告らを勧誘したことによるものであり、政金らは、原告らが右のような錯誤に陥っていることを十分認識しながら前記カードローン契約等の締結を勧めたことは明らかである。
しかしながら、前述のとおり、本件当時、政金は、被告横浜銀行小田原支店の支店長代理主査として同支店の渉外係を統括する立場にはあったが、同支店扱いの案件に関して、同被告の営業に関する行為について同被告を代理する権限を有する地位にあったわけではなく、また、前記岡部、加藤、松岡それに富井は、渉外係や集金業務を担当する一行員に過ぎなく、したがって、原告らの右錯誤が政金らに認識されているからといって、直ちに、被告横浜銀行や被告横浜信用保証による錯誤に当たるものということはできない。
よって、前記各契約の錯誤無効の主張は理由がない。
(二) 詐欺による取消の主張について
また、詐欺については、前記認定のとおり、政金らは、特別勘定の運用利率が九%の場合のみを強調した勧誘行為を行っているが、本件勧誘当時はいわゆるバブル経済が崩壊する前で、株式市場も未だ堅調であり、一方土地の地価は急上昇傾向にあり地主は相続税支払いに苦慮する状況であったことは公知の事実であって、政金ら及び遠藤においても、死亡保険金でもって、銀行からの借入金は原告死亡時までに発生する利息相当額の追加融資分を含めて完済できるものと予測して本件勧誘に当たってきたものと推認されるのであり、同人らに欺罔の意思があったと認めるに足りる証拠はないから、詐欺による取消の主張は理由がない。
(三) 公序良俗違反の主張について
前記認定のとおり、銀行法及び募取法によって銀行員の保険勧誘自体が禁止されているにもかかわらず、政金ら被告横浜銀行行員は本件変額保険の勧誘行為をしたものであり、しかも、これを被告横浜銀行が組織的になしたものといわれてもやむを得ないところがあることは否定できず、また、年齢、経歴などからみて、高額でしかもリスクも高い本件変額保険契約を締結する適格性があるとは必ずしもいい難い原告らに本件変額保険を勧誘し、その結果、原告らは右保険に加入して高いリスクを負担せざるを得ない事態となり、その一方で、被告横浜銀行は、原告らから十分な不動産担保までとって回収不能のおそれなく保険料相当額を一括貸し付け、多額の利子収入を得ているもので、これは、銀行の公共性にもとるものとも言えようが、しかし、右のような事情があるからといって、後記不法行為の点はともかく、直ちに、被告横浜銀行の本件カードローン契約や被告横浜信用保証の保証委託契約等が公序良俗に反して無効であるとまでいうことはできない。
(四) 契約解除の主張について
既に認定説示したとおり、政金らや遠藤は、原告らに対し本件各変額保険の加入を勧誘するについて、変額保険の特性、特にデメリット面を十分に説明していないばかりでなく、借金して保険に入っても死亡保険金で借入元利金は返済でき、借金が残ることはないなどと客観性、正確性に欠ける説明をし、その結果、原告らが被告横浜銀行から保険料相当額を借り入れ、これを原資として本件各変額保険契約の締結に踏み切ったものであり、したがって、原告らは、政金らから本件変額保険の特性について正確かつ十分な説明を受けていたならば、いずれも、死亡保険金により銀行からの借入元利金の返済ができない場合があり得ることを認識し、本件各変額保険契約及びこれと一体となった本件カードローン契約、本件保証契約等を締結することがなかったものということができよう。
しかしながら、前述のとおり、そもそも、生命保険の募集について、募取法が種々規制を加えているうえ、変額保険の募集については変額保険の販売資格取得制度を設けるなど生保協会がさらに厳しい自主規制を敷いており、また、銀行員自らが保険の勧誘を行うことは法令により禁じられているところであって、それに、実際問題としても、銀行員が、保険やその業務についての正確な知識をもっているとは考え難く、したがって、このような者に保険内容についての正確な説明義務を課することはできないものであるといわねばならず、よって、政金らが、原告らに対しあえて本件各変額保険の加入を勧誘し、それにより原告らは本件各変額保険契約に付随する本件カードローン契約等を締結するに至ったものであるからといっても、右説明義務違反を債務不履行事由として、本件カードローン契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約を解除することはできないものといわねばならない。
五 被告明治生命、同代理社及び同横浜銀行の不法行為責任の有無について
1 被告明治生命及び同代理社について
(一) 前記一認定の変額保険の特性、変額保険の発売の経緯に照らし、生命保険募集人は、変額保険募集に当たり、顧客に対し、変額保険に対する誤解からくる損害発生を防止するため、変額保険が定額保険とは著しく性格を異にし、高収益性を追求する危険性の高い運用をするものであり、かつ、保険契約者がその投資リスクを負い、自己責任の原則が働くことを説明すべき法的義務が信義則上要求されているものというべきであり、客観的にみて、この点を理解させるに十分な説明がなされていなければ、変額保険募集時に要請される説明義務を尽くしていないものというべきである。
具体的にいえば、最低限、前記一で認定した変額保険の基本的仕組み及びその危険性、生保業界が定めた自主規制ルールに記載されている顧客への確認事項は全ての顧客に対して確認していなければならない。そして、顧客の中には、交付された書面を一読すれば右の各事項を理解できる者もいれば、書面に加え口頭でも十分説明しなければ理解できない者もおり、その確認方法は、説明を受ける顧客の学歴や経歴、職業、株式等の有価証券取引についての知識、経験の有無等の属性に応じた方法を取らなければ、変額保険募集時に要請される説明義務を尽くしたとはいえない。
しかるに、遠藤は、原告らに対し、変額保険の仕組みにつき、パンフレットのグラフ部分を指して、保険料は、特別勘定の運用により配当が増減し、上積みになる部分もあれば、マイナスになる部分もあって、これが変動保険金部分であり、運用がマイナスになっている時に解約すると損をするが、死亡した場合の基本保険金三億円は保証されている旨の不十分な説明をしたのみであって、このような説明では、途中解約を予定せず基本保険金額が高額である原告らにおいては、変額保険の危険性の認識が薄くなる危険があり、さらに、遠藤は、実際の資産運用の面では、私製資料であるシミュレーションを用いて被告明治生命の運用実績は九%を上回る高利で運用されているが、大蔵省の指導で九%と表示しているとして、プラス効果欄を強調し、死亡保険金が相続税の支払いの原資になる旨を述べたのであるから、これらの説明全体の趣旨に照らせば、遠藤は、顧客たる原告らに対し、常に九%を超える運用実績を望むことはできない旨を説明したに過ぎず、運用実績が負になることは実際上起こりえない旨を述べたものというべきである。
ただ、前記認定のパンフレットの記載内容に照らすと、原告らが右パンフレットを一読しただけで右記載内容を正確に理解することができるとすれば、これを原告らに交付しただけでも、本件変額保険の基本的仕組み及び危険性について書面をもって説明をしたとして、説明義務を尽くしたと言いうるかもしれない。しかし、前記一で認定した変額保険の特性、販売経緯及び規制に照らすと、通常の顧客においては、従来は定額保険のみであったため、新たに発売された変額保険の仕組み及び危険性について正確に理解することが容易でないことを当然の前提として、変額保険募集上の留意事項について大蔵省の行政指導が行われ、また、生保協会の自主規制として、変額保険販売資格を設けたり、基本的な五項目について顧客に説明することを求めたりしているのであるから、生命保険募集人が本件パンフレットのような書面を、その内容の一部をおざなりに説明しただけで交付したような場合は、顧客は、よほど慎重に検討しないと正確な理解に達しえないであろうし、しかも、前記二で認定したとおり、遠藤が原告らに変額保険のパンフレットを渡したのは、銀行員が一ないし二か月間変額保険の勧誘をして原告らが変額保険の加入申込みをした前後一週間位の間であって、交付時期を失しており、さらに原告中島を除く原告らの学歴、経歴及び職業等にかんがみると、客観的にみて、遠藤の本件パンフレットを用いたおざなりな説明及びシミュレーションを用いた有利な面だけが誇張された説明をもって、原告らが、本件変額保険のもつ投機性、危険性、保険契約者の自己責任の原則について正しく理解するに必要かつ十分な説明がされたものということは困難であり、遠藤が右説明義務を尽くしたということはできない。原告中島についても、同人にパンフレットが交付された時期、同人に投資経験等がないことからやはり同様に考えるべきである。
(なお、証人遠藤は、原告らが被告横浜銀行の担当者から予め変額保険の説明を受け、その内容につき理解していたようであったと供述するが、銀行員は保険の勧誘をすることはできず、保険自体の知識及び保険勧誘の知識経験が遠藤よりも数段劣っていることは明らかであって、かつ、本件では、被告横浜銀行において、積極的に変額保険の勧誘をし、被告代理社側から手数料や協力預金をとっていたのであるから、右の際に変額保険の有利な面を強調した素人的な説明がおこなわれていたことは遠藤にも容易に予想できるところであって、このように原告らが変額保険の持つ投資リスクについて十分な認識を欠いていたことが予想されるのならなおさらのこと、変額保険のもつ投資リスク、保険契約者の自己責任の原則について十分に説明すべきであって、証人遠藤の前記供述によっても、遠藤が説明義務違反を免れる事情とはならない。)
(二) さらに、顧客が保険料の支払原資を金融機関等からの借入れにより賄うときは、本件のような終身型変額保険においても特別勘定資産の運用実績が予定利率を下回ったままだと、死亡・高度障害の事由が短期間で生じないかぎり、右借入金の元利が解約返戻金はもちろん基本保険金の額を大幅に上回る危険性があるところ、原告らは、自己資金ではなく、銀行から保険料相当額の借入れを受け、かつ、利息の支払いについても追加融資を受け、原告定子、原告信男、原告栁下及び原告サイのそれぞれの死亡時までに発生する借受金全部を死亡保険金で一括して弁済できるとの前提で、本件変額保険加入を決断したものであり、遠藤は、被告横浜銀行から原告らの紹介を受けて右事実を知っていたのであるから、このような事実関係のもとにおいては、変額保険募集人たる遠藤において、募集時に要請される一般的説明(特に予定利率の数値や、予定利率と変動保険金の増減との関係は不可欠な説明事項である。)に加え、信義則上、少なくとも当時の金利水準、変額保険の運用実績に基づいて検討した場合、原告らの右前提事実の判断に錯誤がないかどうか、その判断の基礎となる事実を説明すべき義務があったものというべきである。しかるに、遠藤は、右の点に関する説明をせず、かえって、特別勘定の運用利率の水準が九%であるかのような説明をし、死亡保険金が相続税支払いの原資になる旨を述べるなどしたのであるから、この点からも説明義務に違反するものというべきである。
(三) また、被告明治生命の特別勘定の運用実績が九%を下回ることがないことを強調した遠藤の行為は、前記の大蔵省通達の禁止する「将来の運用成績についての断定的判断の提供」にも該当し、説明自体が不正確な点は、募取法一六条一項一号の事実の不告知に、私製資料を使用した点は、生保協会の自主規制ルールに違反する(変額保険による資産は、保険会社の一般勘定とは別個に、分離独立したものとして構成され、その損益は変額保険契約者に直接還元される仕組みとなっているので、変額保険における特別勘定の運用成果を募取法一五条の「利益の配当又は剰余金の分配」とすることは困難である。)ところ、これらに違反することが直ちに私法上違法とされるわけではないが、本件における勧誘の対象が変額保険という我が国ではなじみのなかった商品であること、生命保険が安全性のある商品であるという点に国民の信頼が寄せられていたこと、右規制等の趣旨は保険契約者の利益保護にあると解されるところ、本件では複数の規制事項や自主ルールに反する勧誘が行われていること等の諸事情に照らすと、本件遠藤の説明に含まれる断定的判断の提供行為等は私法上も違法の評価を受けるべきものと考える。
(四) 以上によれば、遠藤には、本件各変額保険の加入を勧誘するに当たって説明義務違反の違法があったものというべきであり、右説明義務違反について同人に過失のあることは明らかであるうえ、原告らは、被告横浜銀行行員らの後記違法な勧誘行為に加え、事実上の提携関係に基づく遠藤の右違法な行為があったなればこそ、本件各変額保険の加入申込みも取り消さず、その各成約に至っているものであって、遠藤の右行為は民法七一九条一項の共同不法行為に該当し、被告代理社には民法七一五条に基づく使用者責任が、被告明治生命には募取法一一条に基づく損害賠償責任がそれぞれ認められ、両被告には原告らが遠藤や政金らの違法な行為の結果被った後記損害を賠償すべき義務がある。
2 被告横浜銀行について
(一) もともと変額保険の生命保険募集人に顧客を紹介する行為自体は、適法な行為であるから、政金らが遠藤をして変額保険の勧誘をさせるために原告らに遠藤を紹介しただけであれば、そのこと自体は何ら違法なことではない。また、変額保険と定額保険には、それぞれ利点もあり、金融機関が高額の変額保険の保険料支払資金を融資すること自体が違法行為となるものでもない。
しかしながら、前記二、三で認定のとおり、政金は、被告横浜銀行小田原支店の支店長代理主査であり、岡部らは、被告横浜銀行の集金担当者や渉外員であって、いずれも、銀行法上他業が禁止されており、当然ながら生命保険募集人の資格も変額保険販売資格も有していないにもかかわらず、岡部らは、主査である政金の指示の下、被告横浜銀行の旧来からの顧客や新規取引先の高齢者である原告らに対し、相続税対策と称して、被告横浜銀行からの融資契約と一体となった本件変額保険への加入を積極的かつ執拗に勧誘し、右勧誘の際は、生命保険募集人が使用を禁止されている雑誌記事や相続財産概要などの私製資料を用いて、不十分な知識に基づき、変額保険のハイリターンの側面のみを重視した勧誘行為を行っており、しかも、被告代理社に本件原告らを紹介した見返りとして、被告横浜銀行小田原支店は、手数料名目で、遠藤が受け取る一万円につき一五〇円の割合の成約手数料のうち一万円につき四〇円の割合で朋栄を通じて受け取っており、これは、遠藤の手数料の約四〇%にも上るものであって、これらによれば、政金らの本件各変額保険加入の勧誘行為は、単なる保険紹介の域を遥に超える、本来なすことのできない保険の募集行為それ自体に該当する行為を行っていることが明らかである。これら諸事情及び前記生保協会における規制等の趣旨が顧客保護にあることに照らすと、本件政金らの原告らに対する勧誘行為は、それ自体原告らの権利を侵害する違法な行為と評価すべきものである。
(二) 以上によれば、政金らの原告らに対する本件各変額保険加入の勧誘行為それ自体が違法なものであり、右違法な勧誘行為をなすについて政金らに少なくとも過失があったことは明らかであり、そして、これは、前記遠藤との共同不法行為として民法七一九条一項の不法行為に該当し、被告横浜銀行には、民法七一五条に基づく使用者責任が認められ、同被告には、政金らの右共同不法行為の結果原告らが被った後記損害を賠償すべき義務がある。
六 原告らの損害
そこで、本件各変額保険契約を締結した原告定子、原告信男、原告栁下、原告サイの損害の範囲及びその額につき検討するに、右原告らは、政金ら及び遠藤の共同による違法な勧誘行為により、本件変額保険契約を締結して本件保険料を支出し、同保険料支払のため被告横浜銀行から本件融資を受け、そのために本件根抵当権登記設定手続費用、口座開設料等を支払っており、そして、遠藤も、右原告らが保険料支払のために被告横浜銀行から保険料相当額を借り入れることを知悉していたものであるから、本件不法行為と相当因果関係にある右原告らの損害は、本件各変額保険の保険料相当額の借入金の金利、右根抵当権設定登記手続費用、口座開設料等が含まれるというべく、したがって、被告明治生命、同代理社及び同横浜銀行は、連帯して右損害を賠償する責任があることになる。
そこで、右損害額を検討すると、原告らは、本件各保険料、本件融資のための根抵当権設定登記手続費用、口座開設料を支出しており、これに本訴提起時までの右融資金の利息及び手数料を加えて合計すると、それぞれ別紙損害目録1記載の損害合計額の金員を支払ったことになり、これを損害元金とすると、本件口頭弁論終結時の平成七年一二月二〇日までの借入元金と右損害元金との差額は、別紙損害目録2記載の「元金の増加分(①)」となり、また、本件カードローン契約は、平成六年一一月二四日(原告定子については同月二五日)に解約されているから、解約日までの約定利息(別紙損害目録2記載の「解約日までの約定利息②」)と解約日の翌日から遅延損害金(平成七年一二月二〇日までの分として別紙損害目録2記載の「解約日の翌日からの遅延損害金③)」が発生している(当事者間に争いがない。)。
ところで、前記のとおり、本件変額保険契約はいずれも無効であり、原告らは、不当利得返還請求権に基づき、被告明治生命に対し払込保険料相当額の返還請求権を有することになるので、したがって、原告らは、前記訴え提起時の損害元金に別紙損害目録2記載の①から③の各金員を加算し、そこから、払込保険料相当額を控除した、原告定子については九三六三万八三〇三円、原告信男については一億二七七五万〇八七五円、原告栁下については一億三二〇一万八九〇四円、原告サイについては一億〇七七九万一七四七円の各損害を受けたことが明らかである。
七 過失相殺について
進んで、過失相殺の当否、過失割合について判断する。
1 前記二で認定した事実によれば、原告らは、政金ら及び遠藤からそのメリットないしハイリターンの側面のみ強調された相続財産概要及びシミュレーションに基づき本件変額保険の説明を受けたとはいえ、遠藤から、本件変額保険は、保険料が特別の運用をするもので変動保険金部分があることや、最低限保証されるのは基本保険金である旨の説明を受けていたのであり、また、パンフレットには、変額保険のリスクの側面を記載する部分があったことに照らすと、本来、慎重に判断すれば、保険料の支払原資を金融機関から借り入れれば、その金利は期間の経過とともに一定割合で増大するものであるから、右運用次第では、借入金の元利合計額が基本保険金額を上回り、その損失も時の経過とともに増大する危険性があることをある程度認識することが可能であったことは否定できない。就中、原告にあっては、同原告の経歴などからすれば、右危険性を相当程度認識することが可能であったものと認められるし、変額保険説明のため遠藤が同原告の職場を訪ねているのであるから、その際、説明内容に不明な点があれば、遠藤に尋ねることによりそれなりの説明を受けることも可能であったというべきである。
これらの点を考慮すると、原告らが本件変額保険契約を締結し、前記認定の損害を被ったことについては、原告らにもある程度の過失があるものといわざるを得ない。
2 しかしながら、他方、前記二、三で認定したとおり、原告栁下を除く原告らは、被告横浜銀行の昔ながらの顧客であって、被告横浜銀行に寄せる信頼には絶大なものがあったところ、政金ら被告横浜銀行行員らは、右信頼関係に便乗し、しかも、原告らはいずれも土地を所有する高齢者であるところ、高額な相続税が原告らにかかることを告げて不安をあおった上で、その心理状態を利用して本件変額保険への加入を積極的かつ執拗に勧誘しているもので、その勧誘態様には、違法であるばかりでなく、相当悪質な面もみられること、その上、被告横浜銀行は、本件原告らの変額保険の加入により手数料名目で金員が還元され、かつ、被告代理社から特別通知預金も獲得し、相当の利益を得ていること、また遠藤においても、原告らに対する変額保険の説明は、その訪問時期と回数、時間、方法及び内容の全てにおいて不十分、不適切なものであるうえ、保険証券にある運用実績が勧誘時の説明と異なるとの原告信男の質問に対しては、大蔵省の指導で最低数値が記載されているなどと虚偽の回答をし、原告信男を安心させるなど、加入後においても不適切な説明がなされているのであって、生命保険募集人として非難されてもやむを得ない面が多々あることなどを考慮すると、被告横浜銀行、同代理社側の過失の程度には相当重いものといわなければならない。
3 以上のほか、本件に現れた諸般の事情を考慮すると、各原告らに生じた損害に対する原告らの過失割合は、原告定子、原告信男、原告栁下については、各々その二五パーセント、原告サイについては三〇パーセントと認定するのが相当である。
そうすると過失相殺後の原告らの各損害は、原告定子について七〇二二万八七二七円、原告信男については九五八一万三一五六円、原告栁下については九九〇一万四一七八円、原告サイについては七五四五万四二二二円となる。
八 弁護士費用
原告らが本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に訴訟委任をしたことは、本件記録上明らかなところ、本件事案の内容、その難易度、認容額等にかんがみると、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、右過失相殺後の損害額の一割弱相当額、すなわち、原告定子については六五〇万円、原告信男については九〇〇万円、原告栁下については九五〇万円、原告サイについては七〇〇万円と認定するのが相当である。
九 結論
以上によれば、原告らの主位的請求は、そのうち、被告明治生命に対し各原告らの払込保険料相当額の金員の返還及びこれに対する平成五年一一月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余の主位的請求はいずれも理由がないから棄却し、予備的請求は、被告明治生命、同代理社及び同横浜銀行に対し、各自、原告定子につき七六七二万八七二七円、原告信男につき一億〇四八一万三一五六円、原告栁下につき一億〇八五一万四一七八円、原告サイにつき八二四五万四二二二円並びにこれらに対する不法行為発生の日である平成元年一一月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官川波利明 裁判官千川原則雄 裁判官阿部和桂子は、退官につき署名捺印できない。裁判長裁判官川波利明)
別紙債権目録一、二、三<省略>
別紙物件目録一、二、三、四<省略>
別紙登記目録<省略>
別紙損害目録1、2<省略>